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tonton-chanさん、こんばんは。
非常に難しい論点だと思います。

 まず、一般論として、買戻権の登記名義人が登記権利者となり、所有権の登記名義人が登記義務者となる買戻権の変更又は更正登記を申請する場合は、後順位の抵当権者等は登記上の利害関係人に該当し、承諾を証する情報を提供できる場合は付記登記で、これを提供できない場合は主登記にて登記がなされると説明されています。
 そうすると、売買代金を減額する変更又は更正する登記を申請する場合も、申請人は上記の場合に該当するため、抵当権者は利害関係人に該当し、その承諾を証する情報の有無により、付記登記と主登記が区別されるとの結論を導くことも、理論的に十分可能であると考えます。
また、それはあたかも地上権の地代の減額は土地所有権の交換価値を下落させるため、抵当権者が利害関係人になる場面と同様の発想によるものと思われます。


 当該更正登記において、抵当権者が登記上の利害関係人に該当する理由を解説する文献は見つけることができず、以下は私の個人的な見解です。

 まず、形式的には、抵当権者は買戻権の登記がなされていても抵当権を実行することができ、その競売代金から被担保債権を回収することができるため、交換価値の下落は、当該抵当権者に不利益を及ぼすものといえます。ただ、この「抵当権者の把握する交換価値」の範囲については規定がなく、解釈によることになります。
そこで、そもそも現在の所有権登記名義人が買戻代金を請求する債権を具体的に取得するのは、買戻権が行使された時点であり、その点を強調するならば、それ以前の時点では、抵当権者が把握する交換価値の要素としては「売買代金」は除外して算定すべきという考え方ができます。もちろん仮に抵当権実行における買受人が出現する場合は、当該買受人は、実際には当該買戻代金額を考慮するであろうことから、これを除外するのは形式的に過ぎるともいえます。

 次に、最終的に買戻権が実行された場合には、当該抵当権は当然に消滅する、つまり買戻権行使によって、初めに遡って所有権は復帰し、かつ、遡及的効果が生じることは買戻権の登記によって公示されているため、これを第三者である抵当権者にも対抗できることになります。
ならば、買戻代金債権が具体化する時点では、抵当権は消滅しており、当該買戻権者との関係では、最初から抵当権は存在しなかったものと構成できるため、そのような抵当権者にとって、売買代金の減額は影響を及ぼすものではないとも考えることができます。

 さらに、買戻権が行使された場合には、抵当権は消滅するものの、買主(所有権登記名義人)が取得した買戻代金債権に抵当権者は物上代位ができるとする判例(最判平11.11.30)があり、当該物上代位においては、買戻代金減額は、明らかに抵当権者に影響を及ぼします。しかし、「登記上の利害関係人」は登記簿から判断すべきであり、物上代位に対する影響をもって、当該抵当権者を「登記上の利害関係人」と位置づけるには、少々無理があるといえるのではないでしょうか。

 以上のような点を考慮して、登記研究では、当該抵当権の名義人が登記上の利害関係人に該当しないと判断しているのではないかと私は考えます。

講師 小泉嘉孝

参考になった:4

koizumi 2017-08-15 14:12:10

 小泉先生、ご回答ありがとうございました。
 先生のとても丁寧な見解を拝見しまして、誠に恐縮しております。

 今回の質問事項も、初学生の当方が、何度考えても分からない部分でした。
 「買主が取得した買戻代金債権に抵当権者は物上代位ができる」とする判例の記述も見つけて自分なりに考えていたのですが、登記研究の結論は、どう考えても、反対の結論としか思えなかったのでした。
 そもそも難しい問題だったことを知って、半ばほっとした気持ちがあります。
 

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tonton-chan  2017-08-26 07:56:50



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