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(1) 青木鉛鉄事件
これは、会社の同僚同士が喧嘩して怪我をした事故から生じた裁判です。喧嘩ですから第三者が関係しています。
ただ、会社の同僚労働者との喧嘩で被災したのですから、この同僚労働者の行為に対して会社は民法上の使用者責任を負います。
労災保険は会社が費用を負担して会社の補償義務を担保する保険ですから、会社が民法上の責任を負う被災について労災保険が給付を行った場合、第三者の利害関係を生じません。このため、労災保険はこのような場合の給付に関して、会社はもちろんのこと同僚労働者に対しても原則的に求償をしません。

ですので、このテキストにある判決の内容は、第三者行為災害について政府が行う控除や求償の是非や金額を争ったものではありません。
被災労働者と第三者(同僚労働者と会社)との間に、労災給付後に残った損害賠償額についてのものです。

被災労働者は、加害者である同僚労働者と使用者責任を負う会社に対して、労災保険で填補されない慰謝料や入院雑費等について損害賠償を求めて裁判を起こしました。

一審は損害賠償を認めましたが、二審は、被災労働者が求めうる損害賠償額よりも、休業補償給付、傷病補償年金、厚生年金保険の障害厚生年金の合計額の方が高いとして損害賠償を認めませんでした。

この最高裁判決は、例え損害賠償額よりも休業補償給付、傷病補償年金、厚生年金保険の障害厚生年金の合計額が高額であっても、これら保険給付と調整対象になるのは消極損害(逸失利益)だけであり、慰謝料や入院雑費等は調整対象にならないとして、二審判決を破棄、高裁に差し戻したものです。



(2) 高田建設従業員事件
これは業務上のトラック運転中の被災労働者が、やはり仕事で運転していた乗用車と衝突した事故から生じた裁判です。交通事故ですから第三者が関係しています。
ただ、このテキストの内容も、第三者行為災害についての政府が行う控除や求償の是非や金額を争ったものではありません。
やはり、被災労働者と第三者(相手方の運転手とその会社)との間に、労災給付後に残った損害賠償額についてのものです。

運転中の車同士の交通事故ですから、片方の運転手であった被災労働者に責任がないということは少なく、この事件の場合も被災労働者側に相当な過失割合が認定されました。過失相殺分は当然ですが損害賠償請求の対象になりません。

また、労災保険がすでに給付した部分も損害賠償請求の対象になりません。

すると、労災保険の給付を受けた後、なお支払われるべき損害賠償額を考える場合、元々の損害額を基準として、
(a) 過失割合によって損害額を相殺したのち、労災保険が給付した部分を控除する。(控除前相殺)
(b) 労災保険が給付した部分を控除したのち、残額について過失割合で損害額を相殺する。(控除後相殺)
の、2つの方法が考えられます。

仮に損害額が500万円、過失割合が40%、労災保険からの給付が300万円だったとすると、
上記(a)の控除前相殺の場合は、500万円×(100%-40%)-300万円=300万円-300万円=0円
上記(b)の控除後相殺の場合は、500万円-300万円×(100%-40%)=200万円×60%=120万円
で、(b)の控除後相殺の方が被災労働者にとって有利です。

この事件でも被災労働者側は、控除後相殺による残額の支払いを主張しました。

しかし、民事上の損害賠償請求権は、被災労働者に過失があった場合、相殺により減額されます。
つまり被災労働者は、もともと相殺後の損害賠償請求権しか持っていません。
国が保険給付を行った場合、その保険給付の価額の限度で損害賠償請求権が国に移転するという法制度の趣旨を考えた場合、その元となる損害賠償請求権は、その労働者が有している損害賠償請求権ですから、相殺後のものであるのが妥当です。

この趣旨により、最高裁は控除前相殺が妥当であるとしました。



なお、この(2)の事件の元となった事故について労災保険の求償や控除があったかどうかは寡聞にして私は知りませんが、一般論として、このような場合、労災保険よりも自賠責保険や自動車保険からの給付が先行し、その範囲で労災保険の給付は控除されます。労災保険からの給付が先行した場合は自賠責保険や自動車保険に求償します。



P/S
質問広場の回答者は誰でもなれます。ですので回答する方がやま予備のスタッフとは限りません。できれば質問だけで内容が第三者にわかるように書いていただけると助かります。今回の例で言うと、事件名と日付が分かれば回答はずっと楽になります。

参考になった:8

poo_zzzzz 2017-11-21 21:59:36


詳しくご説明くださり、ありがとうございました。

判例の要旨だけでなく解説を加えてくださったことで大変わかりやすく、全ての疑問が解消致しました。

全く想定していなかった内容だったことから事件の背景を知ることの大切さを実感し、また、山川先生が「別の教材で1判例につき15分くらいずつ解説している」とおっしゃっていた意味もよくわかりました。

判例の学習では事件そのものに立ち返って理解に努めたいと思います。
また、それでもわからない場合は、アドバイスいただきました点に留意して、ご質問させていただきたく思います。

この度は、丁寧なご回答をありがとうございました。

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amamy  2017-11-22 23:22:02



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