ニックネーム | *** 未ログイン ***

 

回答順に表示     新しい回答から表示     参考になった順に表示

労災保険法は、労働基準法の災害補償の規定で事業主が負担すべき補償を保険によって代行する制度です。
そのため、労基法に定める災害補償の諸規定と、労災保険法に定める業務災害の諸給付は、対応の関係にあります。(通勤災害等のプラス・アルファは別として)

休業補償給付は、労働基準法の休業補償に相当します。
休業補償を定めた労働基準法76条1項は、「労働者が前条(=療養補償)の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合」に休業補償を行う義務が定められています。
ここで、労働者が刑事施設等の拘禁又は収容されている日は、労働することができない理由が「塀の向こうにいるから」であり、「業務上負傷し、又は疾病にかかった」から(労基法75条1項)ではありません。
労基法76条1項は、あくまでも同法75条1項の規定による療養を理由とした休業に対する補償の規定ですから、使用者はそれ以外の日については労働者に休業補償を行う義務がないため、労災保険法で休業補償給付を行う理由も発生しえないことになります。

これに対して、傷病補償年金や障害補償年金は、労働基準法の障害補償や打切補償に相当します。
(厳密に言えば、打切補償は障害補償と違って必ずしも強制的に行わなければならないものではありませんが、分けるのも面倒なので、今回はひとまず趣旨を似通ったものとして一括りにさせてください。)

障害補償や打切補償は、業務上の傷病が治癒した後に身体に障害が残ったり、療養の開始後一定期間(打切補償の規定では3年)を経過しても治らない場合に、使用者は補償を行う必要があります。
「治癒した日や3年経過した日にたまたま塀の向こうにいた」からといって、この補償の債務を免れる……なんていう、使用者にとって虫の良い話は労基法のどこにも書かれていませんから、障害補償や打切補償を行う必要があります。
そうなると、もしも「塀の向こう」を理由に傷病補償年金や障害補償年金の給付が行われないとするならば、労働基準法に基づいて使用者が障害補償や打切補償を行う必要が生じてしまい、保険の意味がなくなってしまうという次第です。


余談ですが、かつての人気番組だった「アメリカ横断ウルトラクイズ」の名物コーナー“泥んこクイズ”で、こんな問題が出たことがあります。

(問題)たとえ刑務所の囚人であっても、働かせすぎると労働基準法に引っかかる。○か×か?
(正解)×……囚人は、労働基準法に定める労働者の定義に該当しない。

クイズ番組なので表現の正確性は横に置いておくとして、労働基準法に基づく休業補償に相当する休業補償給付が、「塀の向こう」では対象にならないことを確認させてくれる問題です。

参考になった:11

towalion 2016-10-30 23:34:14

towalion様

早速に有難うございます。

わかりやすい説明をいただき、よくわかりました。
これで出題されても迷うことはないと思います。

取り急ぎ御礼申し上げます。

投稿内容を修正

smn11210  2016-10-31 04:58:16



PAGE TOP