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労働基準法/変形労働時間制と民事上の権利義務
watam 2016-10-30 20:51:43
変形労働時間制のうち
法32条の2の1項(1箇月単位の変形労働時間制)を例にして質問させていだだきます。
この法32条の2の1項は、法32条に対する免罰のための規定であることは理解していると思うのですが、
「就業規則等の定めがあってはじめて、使用者、労働者に民事上の権利義務が生じ、労使協定の内容に従って労働者を労働させることができる」についての理解が浅いように感じます。
例えば、労使協定により免罰効果を発生しうる定めはしたが、就業規則等にその内容についての定めをしていない場合、
使用者が、労使協定によりある特定された日(仮に10時間とします)に8時間を超えて(10時間を超えないものとする)労働させた場合、
8時間を超えて(10時間を超えないものとする)労働者を労働させても処罰しない、ということは理解していると思います。
また、就業規則等にその内容についての定めをしていない場合は、使用者、労働者に民事上の権利義務関係が発生しておらず、
それゆえ、労使協定の内容に従って労働者を労働させることができない。までは理解していると思います。
ここまでの私の理解を前提に、法32条の2の1項を読んだときに、「特定された週又は特定された日において法定労働時間を超えて労働させることができる」は、
第一段階としての「労働させることができる」(労働者に労働させることができるための第1の壁〈過半数代表者等との手続き面〉クリア的なイメージでとらえています)であり、
就業規則等に労使協定の内容についての定めをすることで、
最終段階としての「労働させることができる」(労働者に労働させるころができるための第2にして最後の壁〈各労働者との手続き面〉クリア的なイメージでとらえています)につながる。
といえるのではないかと現段階では考えています。
つまり、労働基準法が、労働者の意向を確認するための手続きという使用者側の手間を1つ増やすことで労働者を保護しようとしたといえるのではないかと考えています。
そのように考えたとき、
上記の「例えば、労使協定により免罰効果を発生しうる定めはしたが、就業規則等にその内容についての定めをしていない場合」でも
すなわち、「就業規則等に労使協定で定めた内容についての定めをしないまま、労使協定で定めた〈1箇月単位の変形労働時間制〉をスタートさせた場合」でも
使用者が、労使協定によりある特定された日(仮に10時間とします)に8時間を超えて(10時間を超えないものとする)労働させた場合、
免罰効果により、8時間を超えて(10時間を超えないものとする)労働者を労働させても処罰されないと考えるが、割増賃金の支払義務は発生しないものかどうかがわかりません。
民事上の権利義務が発生しない(8時間を超えて労働させる権利がない=労働させることができない)のであるから、8時間を超えて労働させた場合、時間外労働として扱われ、処罰はされないが、
時間外労働として8時間を超えて労働させた時間分の割増賃金の支払い義務があるのではないかと私は考えています。
ご回答よろしくお願いいたします。
「免罰」という言葉を固く捉えすぎですね。
変形労働時間制の本来の効果は、「免罰されて処罰を受けない」という効果ではなく、特定された各日又は各週の法定労働時間が変形されるところにあります。
つまり、変形労働時間制の各条文に適法に従った手順を踏めば、変形労働時間制の各条文に従って特定された日や週については法32条の法定労働時間が適用されず、変形された時間がその日や週の法定労働時間になる、という意味です。ただしそれが本来の法定労働時間未満である場合は本来の法定労動時間が適用されます(以下同じ)。
つまり、正しい手順で特定された日の変形された労働時間が9時間であるなら、この変形労働時間制の適用を受ける労働者のその日の法定労働時間は9時間なのです。
その結果、法32条の制限を超えて労働させても法違反にならず処罰されないことから、これを免罰効果と呼びますが、これは、変形労働時間制の効果を、法32条との関係で見た言い方に過ぎません。
また、労使協定が免罰効果を持つのではありません。変形労働時間制の各条文に適法に従った手順を踏めば免罰効果が生じるのであって、労使協定の適法な締結は、その要件の一つに過ぎません。
例えば法32条の2であれば労使協定が無くても免罰効果が得られますし、法32条の3であれば、始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねることを就業規則等に記載しなければ、免罰効果そのものが生じません。
このことからも、「労使協定=免罰効果」ではなく、「変形労働時間制の各条文に適法に従った手順を踏めば、結果として免罰効果が得られる」のであって、労使協定の適法な締結は、その要件の一つに過ぎないことは理解できると思います。
さて、前置きが長くなりましたが、ここからが説明の中心です。
以上のように、制度の適用を受ける労働者にとっては、変形労働時間制の各条文に適法に従った手順を踏まれれば、その時点で、変形労働時間制の各条文に従って特定された日については、変形された時間がその労働者のその日の法定労働時間です。
また、法37条の適用を受けるのは法33条や法36条1項の時間外休日労働です。
法36条1項を見れば、この時間外労働の規制を受けるのは「第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間」ですので、法32条の2から法32条の5までの変形労働時間制で法定労働時間が変形された日については、その変形された法定労働時間を超えた労働をさせない限り、割増賃金の問題は生じません。
これは、ある労働者が、変形された時間に従って労働する義務を負うかどうか、と、いう問題とは別です。
質問者の方は、例えば法32条の2第1項の「超えて、労働させることができる」の言葉の意味を取り違えておられるように思います。
この「超えて、労働させることができる」は、使用者の権利や労働者の義務を言っているのではないのです。
法32条1項が「超えて、労働させてはならない」と「禁止」を書いていますよね?
変形労働時間制の各条文の「超えて、労働させることができる」は、法32条1項が「超えて、労働させてはならない」と「禁止」を書いていることを受けた、「禁止の解除」の語句に過ぎません。
この「禁止の解除」が法32条から見た免罰効果です。
つまり、これら変形労働時間制の各条文からは、使用者に何の権利も生じず、労働者に何の義務も生じないのです。
生じるのは、制度の適用を受ける労働者について、特定された日や週については、変形された時間が法定労働時間となり、それが法32条の時間を超えていても、法32条違反にならない、という効果だけです。
「法定労働時間」が長い方向に変形されても、所定労働時間内に限れば、労働者には何の影響もありません。
例えば、変形労働時間制の適用がない会社で、就業規則で1日7時間労働の社員が居たとしましょう。
あり得ない話ですが、仮に法32条が改正されて、1日の法定労働時間が9時間になったとしましょう。
この場合、所定労働時間内で働く限り、この社員の権利義務には何の影響もないですね?
変形労働時間制である日の法定労働時間が変形された場合も同じです。
これが、「就業規則等にその内容についての定めをしていない場合は、使用者、労働者に民事上の権利義務関係が発生しない」の意味です。
しかし、この労働者が仮にある日に9時間働いたとしたら、法定労働時間が8時間であれば1時間時間外労働ですが、法定労働時間が9時間であれば、時間外労働はないことになります。
この例えで、お尋ねの件は理解していただけるでしょうか?
受験対策としてはこの程度の理解で十分だと思います。
参考になった:3人
poo_zzzzz 2016-10-31 01:21:09
私の質問に対してのご回答ありがとうございました。
poo_zzzzz様のご回答を受けて、私の現段階における理解しているところと理解があいまいだと思うところは以下の通りです。
~「免罰」という言葉を固く捉えすぎですね。以下の説明
→理解できました。
~さて、前置きが長くなりましたが、ここからが説明の中心です。以下の説明
制度の適用を受ける労働者にとっては、変形労働時間制の各条文に適法に従った手順を踏まれれば、その時点で、
変形労働時間制の各条文に従って特定された日については、変形された時間がその労働者のその日の法定労働時間です。
========
私は「変形労働時間制の各条文に従って特定された日については、変形された時間がその労働者のその日の「所定」労働時間!と捉えています。
法32の2の1項は、「一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、~」とあるので、
法が定める時間ではないと捉え、「法定」労働時間ではなく、「所定」労働時間なのではないかと考えているからです。
(この考え方が、この質問事項について理解できない大元になっている可能性があるのではないかと考えます。)
poo_zzzzz様が、なぜ「法定」労働時間と捉えているかを教えていだだけないでしょうか?
それを踏まえて、再度、poo_zzzzz様のご回答について考え、理解しようと思います。よろしくお願いいたします。
watam 2016-10-31 10:24:18
なるほど、かなり根本的な部分ですね。
まず、法定労働時間とは何か、と、いうことから説明します。
法定労働時間とは、法律上、その定められた時間を超えて、使用者が労働者を労働させてはならない時間です。
その法律的な根拠は、原則的には法32条です。
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法32条
使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
(2) 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
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つまり、1週40時間、1日8時間が法定労働時間です。
ここまでは、理解できていますよね?
さて、変形労働時間制全体を述べていくのは大変ですから、一番簡単な法32条の2の1か月単位の変形労働時間制を見てみましょう。
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法32条の2
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、1箇月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が前条第1項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第2項の労働時間を超えて、労働させることができる。
(2) 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。
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構文が長いので、法32条の2第1項を簡略化し、文言を入れ替えて書き換えます。
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書き換えた法32条の2
使用者は、所定の手続きにより1箇月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない定めをしたときは、法32条1項の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において40時間又は特定された日において8時間を超えて、労働させることができる。
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先にも述べましたが、まず、この最後の「労働させることができる」は、使用者の権利や労働者の義務を述べているのではない、と、いうことは理解してください。
これは、原則の法32条の各項が「労働させてはならない」と書かれていることと、対で理解しなければならない部分です。
法32条の各項に「労働させてはならない」と書かれている。
↓↓↓↓↓↓
だから、その禁止を解除するために、法32条の2が「労働させることができる」と書いている。
ただ、それだけなのです。
1か月単位の変形労働時間制の法32条の2は、法32条各項が定める禁止を解除する条文に過ぎません。
つまり、この「労働させることができる」は、「労働させても法違反にならない」という意味に過ぎないのです。
この部分、しっかり理解してください。
では、1か月単位の変形労働時間制の法32条の2は、何に対する禁止を解除しているのでしょうか?
法32条各項を見れば解るように、
① 1週間について40時間を超えて、労働させること。
② 1日について8時間を超えて、労働させること。
が、法32条が定める禁止です。
1か月単位の変形労働時間制の法32条の2は、この①②の禁止を解除しているのです。
最初の法定労働時間の意味を思い出してください。
法定労働時間とは、法律上、その定められた時間を超えて、使用者が労働者を労働させてはならない時間です。
法32条が、原則の法定労働時間を定める条文だと言われるのは、その「超えることができない時間」を定めているからであり、その定められた時間(1週40時間、かつ、1日8時間)が、原則の法定労働時間です。
変形労働時間制は、「法32条の原則の法定時間を超えて、変形労働時間制で定められた時間まで労働させても法違反にならない」のですから、「法律上、その定められた時間を超えて、使用者が労働者を労働させてはならない時間」、つまり法定労働時間が変更されていますね?
法32条の原則の法定労働時間は、「1週40時間以内、かつ、1日8時間以内でなければ違法」というように、縦も横も「四角型」にがっちり縛られています。
簡単に言うと、変形労働時間制は、この「四角形」の法定労働時間を、「定められた条件の下で、変形期間を通して週40時間平均に収まれば適法」とする制度です。
「1週40時間以内、かつ、1日8時間以内でなければ違法」というように、縦も横も「四角型」の法32条の原則の法定労働時間を、ある変形期間内において「でこぼこした形」に変形することを許し、しかし、変形期間を通じて週平均40時間以内に規制することで、法32条の原則の法定労働時間に比べて、労働者の不利が大きくならないようにしているのです。
つまり、変形労働時間制は、その目的そのものが、法32条各項の原則の法定労働時間を変形することにあります。
そのような制度ですから、変形労働時間制で適法に変形された各週又は各日の労働時間は、それぞれが、その週やその日の法定労働時間です。
さて、話は変わって、所定労働時間は、労働契約上、労働者が労働を提供する義務を負う時間です。
これは民事契約の事項ですから、本来は労働契約で定まるものですが、労働契約法7条により、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によることとなり、また、所定労働時間は就業規則の絶対的必要記載事項であるため、結果として、原則的に所定労働時間は就業規則で定まります。
先の説明と被りますが、もう一度書きます。
変形労働時間制が採用されていない会社で、所定労働時間が1日7時間の社員がいたとしましょう。
その会社に変形労働時間制が導入され、変形後のある日の労働時間が9時間とされたとします。
しかし、9時間に変形されるのは、ある日の1日の法定労働時間です。
この労働者の所定労働時間は1日7時間のままですから、その日の法定労働時間が9時間になっても、この労働者は7時間働いたら、仕事を止めて帰ることができます。
この者を変形後の労働時間に従って働かせるためには、この者の所定労働時間が、変形労働時間制に対応するように、就業規則等で定めなければなりません。
これが、「就業規則等にその内容についての定めをしていない場合は、使用者、労働者に民事上の権利義務関係が発生しない」の意味です。
そして、変形された法定労働時間に、所定労働時間が適合するように、就業規則等を適切に整備することで、変形労働時間制は実施可能になるのです。
参考になった:1人
poo_zzzzz 2016-10-31 16:36:42
poo_zzzzz様、私の思考の程度、段階を察知し、それに合わせて説明してくださり本当にありがとうございました。
私に対しての説明にたくさんの時間を割いていただき感謝しています。)
poo_zzzzz様の説明を順をおって読んで考えることで、poo_zzzzz様の説明を理解することができ、「なぜ」も知ることができました。
「法32条の規制対象となっている労働時間は、労働者の行為が使用者の指揮命令下にあると客観的に評価できる時間(休憩時間を除いた実労働時間についての話)である」
と頭ではわかっていながら、「法32条の2も休憩時間を除いた実労働時間についての話である」ということがすっかり頭から抜け落ちていました。
(poo_zzzzz様の説明のおかげで、抜け落ちていたことに気付きました。)
「法32条の2も実労働時間についての話である」ゆえ、「労働契約上、労働者が労働を提供する義務を負う時間たる所定労働時間」が法32条の2に登場する余地はない、
と今なら考えられます。
また、「変形労働時間制で適法に変形された各週又は各日の労働時間」は、それぞれが、「その週やその日の法定労働時間」であるので、
変形労働時間制に対応するように「所定労働時間」を就業規則等で定める際、
「各週や各日の所定労働時間」を必ずしも対応する「その週やその日の法定労働時間」にぴったりそろえる必要もないと考えています。
例えば、ノーワークノーペイの会社で、ある日の「法定労働時間」が10時間であったとしても、ある社員が30分遅刻してきた場合、
所定労働時間を30分超えて働くことができるようにと、対応する日の「所定労働時間」を9時間にする場合だってあるのではないかと考えています。
(この考えは飛躍しすぎかもしれませんが)
現段階でのpoo_zzzzz様の説明を受けての理解の程度はこの程度です。
「変形労働時間制で適法に変形された各週又は各日の労働時間」は、それぞれが、「その週やその日の法定労働時間」であるのからこそ、
変形労働時間制で適法に変形された各週又は各日の労働時間(原則の法定労働時間を超えている場合の労働時間)を超えて労働した場合(36協定を締結していないとする)、
「法32条違反」に問われる!と考えていることも合わせて、考え違いをしていると思われるところについてご指摘お願いいたします。
watam 2016-10-31 19:51:38
法32条
使用者は、労働者に、休憩時間を除き1日において8時間、1週間について48時間を超えて、労働させてはならない。
2項
使用者は、就業規則その他により、4週間を平均し1週間の労働時間が48時間を超えない定をした場合においては、その定により前項の規定にかかわらず、特定の日において8時間又は特定の週において48時間を超えて、労働させることができる。
これ、昭和22年4月(日本国憲法ができる前)に公布された、労働基準法の最初の法32条の条文です。当時は週48時間労働制でした。
この2項が、変形労働時間制の「原型」です。当時は4週間単位の変形でした。
この1項と2項を見比べれば、2項が、1項そのものを変形している事がよくわかるでしょう?
変形されているのが、法定労働時間そのものであることも、このようにシンプルな形であれば一目瞭然です。
歴史的な成立過程を知っていれば、この部分、疑う余地が無いんですよ。
変形労働時間制は時と共に範囲を拡げ、条文が独立し、要件も複雑になったので、「何をしようとしているのか?」が、わかりにくくなりました。
さて、上記を見れば解るように、当初の変形労働時間制は就業規則等でしか実施することができませんでした。
このため、法定労働時間の変形と民事的拘束力は一体でしかなっかたのです。
時と共に変形労働時間制の範囲が広がり、労働者の包括的同意が必要ということで労使協定が導入されたため、法定労働時間の変形の要件と民事的拘束力が一体ではなくなりました。
しかし、その当初の制度趣旨から考えて、これらは一体的に運用されるべきものだと思われますので、法に反するかどうかは別にして、お尋ねのような運用は、なすべきではないと思います。
最後に書かれている部分ですが、正しいように思います。
参考になった:1人
poo_zzzzz 2016-11-01 09:04:56
法32条の歴史的な成立過程、当初の制度趣旨を根拠に、私の考え違いをご指摘下さりありがとうございました。
おかげさまで、法32条および変形労働時間制について、より深く理解することができ、また理解の幅が広がったと思います。
長い時間、私につきあってくださり、本当にありがとうございました。
それでは失礼いたします。
watam 2016-11-01 11:02:50