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労災保険法/重役の適用について(平成28年問1B)
towalion 2016-11-15 21:13:35
標題の通り、平成28年問1選択肢Bについてです。
疑問は、「その限りにおいて」の表現について、
主に給付額の面でどのような理解をすれば善いのかということです。
(問題)
法人のいわゆる重役で業務執行権又は代表権を持たない者が、
工場長、部長の職にあって賃金を受ける場合は、その限りにおいて労災保険法がてきようされる。
(解答)
○ 法3条、昭和34年基発48号
(参照)
昭23.3.17基発461号
法人の重役で、業務執行権または代表権を持たない者が、
工場長、部長の職にあって、賃金を受ける場合には、その限りにおいて、
労働基準法第9条に規定する労働者である。
昭和34.1.26基発48号
1.法人の取締役、理事、無限責任社員等の地位にある者であっても、
法令、定款等の規定に基づいて業務執行権を有すると認められる者以外の者で、
事実上、業務執行権を有する取締役、理事、代表社員等の指揮、監督を受けて
労働に従事し、その対償として賃金を受けている者は、原則として労働者として扱うこと。
2.法令または定款の規定によっては業務執行権を有しないと認められる取締役であっても、
取締役会規則その他内部規定によって業務執行権を有する者がある場合には、
保険加入者からの申請により、調査を行い事実を確認したうえでこれを除外すること。
この場合の申請は文書を提出させるものとすること。
3.監査役および監事は、法令上使用人を兼ねることを得ないものとされているが、
事実上一般の労働者と同様に賃金を得て労働に従事している場合には、労働者として扱うこと。
4.徴収法11条2項の賃金総額には、
取締役、理事、無限責任社員、監査役、監事等(以下「重役」という)に支払われる給与のうち、
法人の機関としての職務に対する報酬を除き、
一般の労働者と同一の条件の下に支払われる賃金のみを加えること。
5.労働者として取り扱われる重役であっても、法人の機関構成員としての
職務遂行中に生じた災害は保険給付の対象としないこと。
上記通達により、本問の趣旨は以下の通りに理解しました。
---
重役でありながら労働基準法上で労働者としての性質をも有すると解釈される者の場合、
「その(=労働者性を有する部分の)限りにおいて」労災保険制度から給付を受けることができる。
一方で、会社法に定める法人の機関(株主総会、取締役会等)の構成員の立場で
職務を遂行している際の労働災害については、
労基法上の使用者としての職務であり、労働者としての性質が認められないので、
保険給付の対象とされない。
その際に、徴収法に基づく労働保険料の計算にあたっては、
労働者としての性質を有する職務についての賃金の部分のみを対象とする。
---
「労働者でない立場での仕事中に何が起こっても知りませんよ」というのは、
労災保険制度の土台である労基法の趣旨からいっても容易に理解できます。
ただ、ネットを検索して探し出せたのはここまでで、本問のようなケースにおいて、
労基法の平均賃金や、それに基づく労災法の給付基礎日額がどのように決定されるか、
今ひとつ確たる答えが見つけられませんでした。
素直に考えれば、徴収法とリンクして、平均賃金≒給付基礎日額の算定にあたっても
労働者としての部分と重役としての部分を切り分けて扱うように思えます。
しかし、労基法上で「労働者であり、かつ使用者でもある」という立場にある者は
何も重役に限ったことではありません。
仮に、重役について労働者としての部分と重役としての部分を切り分けるとした場合には、
前述のような者に対する災害補償(労基法上の対象は「労働者」になっています)について、
「労働者としての賃金、使用者としての賃金」を切り分けないと辻褄が合いませんが、
労働基準法の災害補償の諸条文にはそんなことはどこにも書かれていませんし、
そもそもそんな必要があるのか、また、実務上それが現実的なのか、正直言って疑問です。
(あるいは、役員報酬≒使用者としての報酬、という私の理解が頓珍漢なのかも知れませんが……)
この点の理解について、考え方をご教示くだされば幸いです。
書かれていることはほぼ合っているのですが・・・
最後が違います。
お尋ねの通達は「使用者であり、労働者であるもの」のことを言っているのではありません。
また、労働者としての賃金と使用者としての賃金を切り分けようとしているのでもありません。
例えば、株式会社の課長や部長が、使用者の立場で部下に指揮命令している最中に負傷したとしても、事業主である株式会社との関係で言えば労働契約関係に基づく使用従属関係があり、単に労働者ですから、労災保険が適用されます。
その場合、その者の賃金は、100%給付基礎日額の基礎になります。
つまり、問題になるのは、事業主との関係です。
法人の場合、事業主は法人そのものですから、代表権を持つ社長ですら、法人との間は契約関係にあります。
しかし、この契約関係は、使用従属関係である労働契約の関係ではありません。
会社の業務を取り締まるという行為を「お任せします」という委任契約関係です。
法人の役員(取締役や理事等)が労災保険の保護対象にならないのは、法人との関係が労働契約関係ではなく、委任契約関係にあるからです。
なお、現代流に言えば取締役や理事等ですが、通達が「重役」になっているのは、通達が出た時代が古いからです。
しかし、例えば株式会社である法人の取締役になった者であっても、法人の業務に対する業務執行権を有さず、単に取締役や理事会の議決に参加するメンバーであるだけである場合に、その者が工場長や営業部長としての業務を兼務する場合は、業務執行権が無いのですから、工場長や営業部長の業務は管理職である労働者としての業務であり、例えば専務や社長の指揮命令を受けているはずです。
この場合、この者は、工場長や営業部長としての業務において、労災保険や雇用保険の適用を受けます。
つまりこの者と法人との契約関係は、委任契約関係と労働契約関係の二重の関係であり、そのうちの労働契約関係においてのみ、労災保険や雇用保険の適用を受けるのです。
二重の契約関係ですから、本来ならばそれぞれの報酬は別なはずです。
例えば役員報酬20万円、基本給60万円、のようにね。
この場合、役員報酬は給付基礎日額の算定対象になりません。
このあたりの区別が曖昧な会社もあり、また、役員登記をしているが役員報酬が0という例(つまり会社の定款を満たすためだけの役員)もあるので、実務では言った者勝ちみたいな部分がありますが、それにしても、兼務役員であるなら、賃金台帳や出勤簿、有給休暇の扱い等は明確にしておかないと、いざというときに労働者性を否認されかねません。
また、法人との契約の形式はどうであれ、監督署の調査(あるかないかは別にして)で、業務執行権があるとみなされれば労働者性を否認される場合があります。
雇用保険の場合はあらかじめ「兼務役員届」を出すルールになっているので、このあたりはあらかじめクリアになります。
参考になった:4人
poo_zzzzz 2016-11-16 03:20:10
さっそくの返信、ありがとうございます。
>例えば、株式会社の課長や部長が、使用者の立場で部下に指揮命令している最中に負傷したとしても、
>事業主である株式会社との関係で言えば労働契約関係に基づく使用従属関係があり、単に労働者ですから、労災保険が適用されます。
>法人の役員(取締役や理事等)が労災保険の保護対象にならないのは、法人との関係が労働契約関係ではなく、委任契約関係にあるからです。
>つまりこの者と法人との契約関係は、委任契約関係と労働契約関係の二重の関係であり、
>そのうちの労働契約関係においてのみ、労災保険や雇用保険の適用を受けるのです。
災害補償の条文や労災法3条の「労働者」という言葉に拘って、「使用者性-労働者性の関係」で頭の中がグルグルしていましたが、
労働者の本来の定義である「労働契約関係に基づく使用従属関係の有無」でシンプルに考えることが出来るというご指摘で、
だいぶスッキリしました。
労基法に限らず、社労士試験の主要科目にあたる法律は、こうした労働契約の類を軒並み「実態判断」で処理すること、
昭23通達のような者は「その限りにおいて」労働者として扱われるので、
設問のような行政解釈の必要があったり、ひいては社労士志望者に問うべき論点として試験に出題される余地が出てくるということですね。
towalion 2016-11-16 07:48:23
そうですね、保険関係の適用や保険料の賦課において、実態での判断はよく出てきます。
例えば正社員である建設工事の作業員の賃金を、事務所の労働保険の労災保険関係の賃金総額に算入する場合、その全額は算入しません。
これは建設現場で働く間は、有期事業である工事現場の労働保険の労災保険関係の適用になるからです。
そうすると、事務所の労働保険の労災保険関係ではどのようにするかというと、例えば建設工事の作業員の賃金については、その8分の1とか、6分の1とかを賃金総額に算入するのです。
これ、どの程度を算入するかは、実態に合わせた事業主の匙加減です。
例えば、現場作業員が毎日1時間程度、事務所で重機の格納や日報の作成等をするなら8分の1でしょうし、それよりも多いなら6分の1とかね。
常識の範囲内であれば、そういった実態の判断で行政から指摘を受けることはほとんどありません。
今回疑問に思われたような箇所も、それに近いものがあり、事業主と労働者間で争いがあって労働者が行政に申し出た場合や、行政が疑義を持って調査した場合は、証拠をそろえ、他の関係者への聞き取り等で判断することになりますが、それがない限り、賃金台帳に「役員報酬20万円、基本給60万円」と書いてあれば、役員としての報酬と労働者としての賃金の割り振りに関しては、それで通ってしまうことが多いのです。
受験対策としては、「どのように判断するのだろう?」の部分は、「労働者としての業務の部分のみを労働保険の対象とする」でよく、その判断は「実態による」ということになり、それ以上の具体的な内容を考えることは、少なくとも受験対策としては、あまり意味が無いように思います。
参考になった:2人
poo_zzzzz 2016-11-16 09:12:19