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労働基準法/令和元年択一問2C
revere 2019-09-04 20:56:43
C 1か月単位の変形労働時間制により所定労働時間が、1日6時間とされ
ていた日の労働時間を当日の業務の都合により8時間まで延長したが、そ
の同一週内の1日10時間とされていた日の労働を8時間に短縮した。こ
の場合、1日6時間とされていた日に延長した2時間の労働は時間外労働
にならない。
この問ではCが正答とされていますが、理由がよくわかりません。
1カ月単位の変形労働時間制は、あらかじめ1日の労働時間を決めるのではないですか。
設問のように、6時間を8時間に、10時間を8時間に変更してもいいのでしょうか。
途中で変更することが可能であれば、あらかじめ決めることにならないのではないですか。
根拠の通達をご紹介、解説していただければ、ありがたいです。
労働基準法上、基本となる法定労働時間は、法32条の1週40時間(原則)1日8時間です。
変形労働時間制は、この1週間と1日の2つの期間に縛られた法定労働時間の「形」を「あらかじめルールに従って変形しておく」制度です。
事業所ごとに、1週40時間(原則)1日8時間の枠に必ずしも縛られない勤務スケジュールを作成し、その勤務スケジュールの作成手続が適法であり、かつ一定期間を通して平均した週の労働時間が40時間(原則)以内であることや、その他の必要要件を満たしているなら、その勤務スケジュールに1週40時間(原則)を超える週があっても、1日8時間を超える日があっても、全体として法定労働時間の枠内にある、と考えるのが変形労働時間制です。
具体的には変形の結果、ある事業所の特定されたある週の労働時間が 休、6、10,8,8,10,休 になった場合、その特定された1週間が42時間であっても、特定された日が10時間であっても、それが適法な変形の結果のその日や週の労働時間であれば、それらを法定労働時間の枠内にあると考えます。
原則の法32条の1週40時間(原則)1日8時間の枠を超えても法定労働時間違反にならないことから、このような変形労働時間制の法的効果を「免罰効果」といいます。
この場合、もちろん時間外労働の問題は発生しません。
「変形労働時間制の変形の内容」は、免罰効果の対象になるための、いわば「設計図」です。
「設計図」が正しい手続と内容で作成されていれば、その範囲で、その事業所の法定労働時間の取扱について免罰効果が生じます。
あなたのおっしゃるとおり、この「設計図」は期間の途中で変更することはできません。
しかし、現実の労働の現場では、例えば顧客との間でトラブルがあったり、急な受注があって、1週や1日の労働時間を超えて労働させざるを得ない場合や、あるいは昨今のような猛烈な台風襲来で、業務を切り上げて早めに帰宅させざるを得ない場合はあり得ます。
このため、結果として、変形による勤務スケジュール通りに就労させることができない、ということはあるのです。
これは「設計図を変更した」ことにはなりません。
単に「設計図通りに就労させることができなかった」というだけのことであり、その場合どうなるのかというと、設計図通りに就労させることができなかったその部分は、変形労働時間制の免罰効果の対象にならない、というだけのことです。
あなたはおそらくこの設問を、変形労働時間制の「設計図を変更する」設問だと思っておられるのですが、そうではありません。
正しく設計された変形労働時間制において、設計図通りに就労させることができなかった時間が生じた場合、時間外労働の取扱をどのようにしますか?という設問なのです。
1か月単位の変形労働時間制によって時間外労働となる時間の計算は、昭和63年1月1日基発1号・婦発1号、平成6年3月31日基発181号で定められており、
① 1日については、就業規則その他これに準ずるものにより8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
② 1週間については、就業規則その他これに準ずるものにより40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間を除く)
③ 変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①又は②で時間外労働となる時間を除く)
となっています。
まず上記①を見ます。
設問にある「1日6時間とされていた日」というのは、上記①において「就業規則その他これに準ずるものにより8時間を超える時間を定めた日」ではないため、「8時間を超えて労働した時間」が時間外労働になります。
すると、設問の「1日6時間とされていた日に延長した2時間の労働」は、1日8時間を超えていないため、上記①において時間外労働になりません。
しかし、当初の変形の結果から見れば2時間オーバーしていますから、1日6時間とされた日に延長した2時間は、上記①では時間外労働にならなくても、上記②か③で時間外労働に引っかかってしまう可能性は、まだこの時点では残ります。
このため、この段階ではまだ「延長した2時間の労働は時間外労働にならない。」とは断定できません。
そこで「1日10時間とされていた日の労働を8時間に短縮した」が登場するのです。
次に上記②を見ます。
まず、6時間の日が8時間になって2時間増え、同じ週の10時間の日が8時間になって2時間減っているのですから、この週の労働時間に増減はありませんね。
この週の労働時間が、当初の変形による労働時間とされた時間から見て増減が無いのですから、この週が「就業規則その他これに準ずるものにより40時間を超える時間を定めた週」であっても、そうではなくても、この週は上記②において時間外労働になることがありません。
最後に上記③を見ます。
変形期間内のある日の労働時間が2時間増え、変形期間内の別の日の労働時間が2時間減っているのですから、変形期間全体で見ても、総労働時間の増減はありませんね。
当初の変形による変形期間全体の総労働時間とされた時間は、同期間の法定労働時間の総枠内にあったと考えるべきですから、総労働時間に増減がなければ、上記③においても時間外労働は発生しません。
このように、上記①②③において時間外労働とならないため、結果として「1日6時間とされていた日に延長した2時間の労働は時間外労働にならない」のです。
なお、この設問で問われているのは「1日6時間とされていた日に延長した2時間の労働が時間外労働になるかどうか」だけです。
変形労働時間制の内容を期間の途中で変更することの可否を問う設問ではないことは先に述べましたが、「1日6時間とされていた日に延長した2時間の労働の賃金と、1日10時間とされていた日の労働を8時間に短縮した2時間の賃金を相殺できるかどうか」というテーマでもないので、念のため。
【追記】
題意を汲み取る、ということは、問題を解く上で非常に重要です。
今回も、「当日の業務の都合により」や「日の労働を8時間に短縮」といった表現に十分注意を払っていれば、「当日の」とか「日の労働を」という部分から、変形労働時間制の内容を再変形できるか?といった問では無く、変形期間中のある週に現実に労働させた結果として生じたイレギュラーな時間が、時間外労働になるかどうかを尋ねている問であることは、簡単に分かったはずです。
それにね、変形労働時間制は、そのルールに反したからと言って、直ちに時間外労働が生じたり、処罰されるような性格の制度ではありません。
制度に沿った手続と内容である場合に、法32条の1週40時間(原則)1日8時間の原則の法定労働時間の「枠」について、例外が適用できる(免罰効果が生じる)という、ただそれだけの制度です。
このため、期間の途中で変更することができない、ということの意味は、変更の内容が免罰効果の面から見て有効にならない、という意味に過ぎません。
変更したら直ちに時間外労働が発生する、とか、変更したら処罰する、といった意味ではないのです。
時間外労働になるかどうかや処罰の対象になるかどうかは、変更の内容が免罰効果の面から有効にならない結果、それに代わってその事業所に適用される労働時間の規制との間で判断することになるため、設問にするのがとても難しくなります。
このため、変更の有効性を突く設問であるなら「することができない」とか「無効である」のような問になるのが普通です。
これに対し、この設問は、時間外労働になるかならないかを尋ねています。この尋ね方一つを見ても、期間の途中で変更した場合を尋ねている可能性は低くなります。
百歩譲って、期間の途中で変更した変形労働時間制の有効性がテーマの一部にあると考えても、期間の途中で変更した場合は変更の結果は免罰効果を得る手段として有効にならないのですから、当初の変形が生きていると考えるべきで、その場合に時間外労働になるかならないかを尋ねているのであれば、結局は上記の説明通りになります。
さらに二百歩譲って、何もかもダメになって法32条の原則に戻ると考えても、「1日6時間とされていた日に延長した2時間」は、いわゆる「法定労働時間内の、所定時間外労働」ですから、この部分だけでは法定労働時間外の労働になりません。
結局、「設問が何を訊いているか?」を考えれば、お尋ねのような疑問はわかないはずなのです。
しかし、一生懸命受験勉強していると、重要ポイントとしてご自身が覚えた知識を「使いたく」なります。
つい、ご自身の知識に合うように、問題文を「読んでしまう」のです。
これは多くの方がそうだと思いますが、敵はそこを突いてきます。
丁寧に「出題者の立場で」問題文を読むことは、学習が進めば進むほど難しくなりますが、とても大切です。
私は先週この設問を解いたのですが、とても良い問題のように思いました。
そんなに長くない問題文なのに、理解した上で正しく解こうと思うと、
・ 変形労働時間制の法的な位置づけ
・ 上記の通達の内容
が分かって、かつ実戦的に使えなければなりませんからね。
まぁ、逆に何も分かっていなければ、「+2時間と-2時間だからチャラ」と簡単に考えて解けてしまうかも・・・ですが
参考になった:25人
poo_zzzzz 2019-09-06 10:39:35
詳細に回答いただき、ありがとうございます。
間違って理解していました。
私の頭にあったのは、「変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度はこれに該当しない。(平11.3.31基発168号)」です。
確かに、1カ月単位の変形労働時間制で時間外労働になる時間については、ご回答のとおりでした。(ここは、2回出題されていますね)
出題者の意図を考える、というところは、今後問題を解く上で、大事にしていきたいと思います。
ご回答ありがとうございました。
revere 2020-03-23 20:33:54