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労働基準法/令和元年択一問6D
yuka014 2019-09-13 16:32:34
いつもお世話になっております。
他サイト「社労士ランド」様にて令和元年の問題を解いている途中です(実力不足のため、2019年度の試験を見送りました)。
問6の択一は誤肢を答える問題でした。
問6 D「いわゆる定額残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのは、定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており、これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか、基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる。」とするのが、最高裁判所の判例である。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87883
上記サイトを見て、
この「」内は高裁の判例であり誤肢と分かりましたが、
最高裁の「(高裁の)割増賃金に関する法令(労基法37条)の解釈適用を誤った違法」とは何か、いまひとつ腑に落ちません。
ご回答いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
この平成30年7月の最高裁判決は、かなりインパクトのあるものでした。
いわゆる定額残業代というのは、例えば20時間分の時間外労働の割増賃金を、当月の時間外労働の有無に関係なく、毎月の賃金に加算して支給するものです。
基本給が比較的低い会社において、生活保障の意味で行われていることが多いようです。
労働者の年収を一定水準以上に維持しつつ、時間外の割増賃金を抑制するための手法ですが、トリッキーな手法であり、労働者側から見れば時間外労働がなくても月収が確保できるというメリットがある反面、毎月のように時間外労働が多い場合は、
① 20時間までの時間外労働の割増賃金の支給がない。
② 時間外労働の割増賃金を計算する元になる賃金が低く抑えられるため、20時間を超えた時間外労働の割増賃金の単価も下がる。
というデメリットがあります。
また、「残業代を固定で払ってるから、うちは残業代は払わない」という無茶な事業主もいて、30時間時間外労働しても50時間時間外労働しても差額の支給がない、なんてことが多くありました。
これは完全に違法なので、行政も指導に乗り出したのですが、当初は、単に「定額残業代を超える時間外労働をさせた場合は差額を支払いなさい」という、シンプルな指導であったように思います。
しかし、トラブルが多く、それに起因する裁判もあり、定額残業代や割増賃金について事業主が十分な説明をしているかどうかはもちろん、定額残業代として支払われる手当の名称が問われたり、定額残業代を超える割増賃金の有無の通知等、多くの論点で行政や司法の場で問題になるようになってきて、「どのようなものであれば、法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのか?、あるいはできないのか?」という点が、問題になっていました。
この高裁判決は、「いわゆる定額残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのは、定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており、これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか、基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる。」としたもので、この要件を満たさない定額残業代は、いわゆる定額残業代ではない(結果的に単なる「手当」ということになる)という判断を示したのです。
被告の会社では定額残業代を「業務手当」と呼称していたのですが、高裁判決は上記判断に基いて、この事件について具体的に検討し、「業務手当の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことはできない。」としました。
この判決による影響は、具体的に例を挙げると下のような現象になります。(判決内容とは関係ありません。何が起きるのかの説明のための単純な例です)
●条件
月平均所定労働時間160時間
支給項目は月額固定の基本給と業務手当の2項目
時間外労働時間30時間、割増率は1.25倍
●業務手当が、定額残業代として時間外割増賃金の一部になる場合
320,000円 基本給 ・・・ (a)
50,000円 業務手当(20時間分の時間外割増賃金の定額残業代)・・・ (b)
時間単価 320,000÷160=2,000円
時間外割増単価 2,000円×1.25=2,500円
時間外割増賃金 2,500円×30時間=75,000円 ・・・ (c)
(c)-(b) 75,000円-50,000円=25,000円 ・・・ (d)
この月の支給額(a)+(b)+(d) 395,000円 ・・・ (e)
この(e)は、定額残業代である(b)が無い場合の、(a)+(c)と同額であることを確認してください。
つまり、定額残業代のシステムを使用しない場合の基本給に対して、(e)は正しく時間外割増賃金の計算ができています。
●業務手当が、定額残業代として時間外割増賃金の一部とはみなせない場合
320,000円 基本給 ・・・ (f)
50,000円 業務手当(定額残業代とはみなせないため、労働の対象としての単なる手当)・・・ (g)
時間単価 (320,000+50,000円)÷160=2,312.5円
時間外割増単価 2,312.5円×1.25=2,890.625円
時間外割増賃金 2,890.625円×30時間≒86,719円 ・・・ (h)
この月の支給額(f)+(g)+(h) 456,719円 ・・・ (i)
(i)-(e)は61,719円ですから、この(b)(g)の業務手当を、定額残業代として時間外割増賃金の一部としてみなした場合と、みなせないとした場合で、この月に支払わなければならない賃金額に6万円以上の差が出ます。
この場合の会社は、業務手当が定額残業代として時間外割増賃金の一部になると考えて(e)の賃金計算をしていますから、もし、労働者が訴訟を起こし、裁判で業務手当が定額残業代とはみなせないと判断されて、(i)の支払いが必要とされたら、この月の時間外労働の割増賃金が6万円以上不足していることになり、裁判所は不足分の支払を命じることになります。
これは、法37条に基づいた割増賃金が不足していると裁判所が判断したことによる命令です。
このように、「ある手当を、定額残業代として法37条の時間外労働の割増賃金の全部又は一部とみなすことができるのか、できないのか?」の問題は、結果として、法37条の割増賃金の計算をどのようにして、額がどうなるのか?の問題です。
下級の裁判所が「みなすことができない」と判断して、その判断に基づいて割増賃金の支払命令を出した場合に、上級の裁判所が「みなすことができる」としたなら、結果として、下級の裁判所の判決に、割増賃金に関する法令である法37条の解釈適用を誤った違法があることになります。
R01労基6Dの裁判の場合、上記(a)~(e)のような精算も完全にはできていなかったようですが、最高裁は、基本的な考え方として「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。」とし、また、労働基準法37条その他の法令において、定額残業代の支払によって割増賃金の全部又は一部を支払ったものといえるために、高裁が判示するような事情が認められることを必須のものとしているとは解釈できないという趣旨を述べた上で、この事件については「労働契約に記載があること、支払われていた手当が実際の労働時間の状況に対して大きくかい離したものではないこと等から、本件の定額残業代は時間外労働等に対する賃金の支払とみることができる」としたのです。
まとめると、高裁判決は、使用者の労働時間の管理状況等の事情が不適切だから、業務手当は、それそのものが定額残業代としてみなすことができない、としたのを、最高裁は、使用者の労働時間の管理状況等の事情に不備があり、支給が不完全があったことは否定しませんでしたが、労働契約に定額残業代についての記載があり、実際の時間と時間外労働の割増賃金の額が大きくかい離していなかったため、業務手当を定額残業代としてみなすことができないとはいえない、としたのです。
結果として、先にも書いたように、高裁の判断による法37条の割増賃金の計算には誤りがあったことになり、「割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った違法がある」という最高裁の指摘に繋がります。
なお、この最高裁判決の判例としての意味は、ある手当が、いわゆる定額残業代として、法37条の時間外労働の割増賃金の全部又は一部とみなすための要件を示したことにあります。
どのような労働時間や賃金計算の管理方法が適正かはテーマではありません。
高裁の示す管理方法に対しても、定額残業代として認められるための必須のものとは解釈できないとは断じていますが、管理方法の内容を否定したものではなく、また、被告会社の管理方法の内容を肯定したものでもありません。
また、お尋ねの「業務手当の支払により被上告人に対して労働基準法37条の割増賃金が支払われたということができないとした原審の判断には,割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った違法がある」の部分は、この最高裁判決(高裁差し戻し)の、判決としての最重要ポイントですが、これは単なる結果です。
(1) ある手当が、いわゆる定額残業代として、法37条の時間外労働の割増賃金の全部又は一部とみなされるための要件を示した ←これが判例としての重要ポイント
(2) それに対して、高裁判決にある事情は、定額残業代として認められるための必須のものとは解釈できないとした
(3) このため、この事件については「業務手当」が定額残業代の支給と認められる
(4) 結果として、業務手当を定額残業代の支給と認めずに、時間外労働の割増賃金の支払を命じた高裁の判断が、法37条の適用を誤っているとされた
それだけです。
参考になった:16人
poo_zzzzz 2019-09-14 23:40:08
poo_zzzzz様
お忙しい中、ご回答いただき感謝いたします。
例示等のおかげで仰ることがよく分かりました。
気の利いたお礼が思いつきませんが、本当にありがとうございました。
yuka014 2019-09-18 09:30:54
コメントありがとうございます。
判例についての出題は難しいですね。
受験対策としては丸呑みが簡単なのですが、なかなか飲みにくい(笑)ことが多いです。
と、いって、やみくもにバラしてかみ砕こうと思うと、あれ?なんか違うこと言ってない?みたいになったりして・・・
判決そのものは事件ごとの個別の事情に左右されるので、結論から読んでいくと、判例として重要なポイントを見失うことがあります。
まず争点を切り分けて、ある争点について、それをどのように見て、どう判断されたのかを見ることが大切です。
次がその判断によって何が変わるのか?で、結論はその後ですね。
参考になった:5人
poo_zzzzz 2019-09-18 09:39:40
poo_zzzzz様
まさに私が詰まった原因だと思います。
「まず争点を切り分けて、ある争点について、それをどのように見て、どう判断されたのかを見ること」ができておりませんでした。
この問が、\\
yuka014 2019-09-19 10:08:25