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労働保険徴収法/暫定任意適用事業における加入申請義務の要件
Wasur3na1id 2020-09-16 22:49:59
暫定任意適用事業における労災/雇用保険への加入に関する要件について質問させていただきます。
両者を比較し、その相違が起きた原因を自分なりに解釈することで、記憶の定着に努めています。
加入申請の要件においては(労災)では事業者の加入意思のみ、(雇用)では労働者の1/2以上の同意と相違があり、これについては(労災)の方がより直接的に労働者の生命身体の保護に寄与するので加入のハードルが低いと解釈しています。
ですが、その解釈だと、加入申請義務の発生要件をみたときに、労働者の半分の希望でも義務が発生する(雇用)の方が労働者保護に手厚く、解釈の整合性がとれません。
どのように解釈すればよいのでしょうか。
それとも、それぞれ別個の法体系にあり、そもそも整合性を求めること自体がナンセンスなのでしょうか。
ご教示願います。
ご質問の内容から離れた部分から始まる説明になります。
ご容赦ください。
雇用保険は、被保険者(雇用される労働者)のための保険です。
でも、労災保険は事業主のための保険なんです。
自動車保険ってあるでしょう?
あれは自動車事故に遭った人のための保険ですか?
違いますよね。
自動車保険の有無に関係なく、民事損害賠償義務は発生します。
自動車保険がないなら、運転者(又は保有者)が自腹で被害者に損害賠償すればいいんです。
つまり、自動車保険は運転者(又は保有者)のための保険です。
労災保険も同じです。
労働基準法75条から84条に、使用者の災害補償責任についての条文があります。
この労働基準法の規定により、労働者が業務上傷病にかかった場合は、使用者が無過失であっても、使用者は療養はじめ各種の補償をしなければなりません。
ですから、労災保険の適用がなければ、使用者(この場合≒事業主)が、労働基準法の規定により自腹で災害補償することになります。
この補償義務を、政府が運営する保険で担保しているのが労災保険です。
このため、まず、労災保険の保険料は全額事業主負担であり、労働者の費用負担がありません。
また、労災保険には、被保険者という概念がありません。
被保険者の概念がないのは、これも、自動車保険が、交通事故に遭った場合に補償する対象者をあらかじめ決めておかないのと同じです。
例えば、社員のご子息がその日たまたま1日だけお父さんの会社の手伝いに来てケガをした場合であっても、賃金の支払が約束され、事業主との指揮命令関係によって働いていれば、労働基準法の適用がありますから、当然労災保険も適用されます。
労災保険の暫定任意適用が、事業主の意思だけで可能であるのは上記の理由によります。
雇用保険は、保険料の一部を被保険者が負担する必要があり、かつ暫定任意適用事業に該当する事業は農林水産業であり、雇用が一定の時期に集中することが多く、他の期間は自営している例がままあるなど、労働者にとって失業等給付の必要性が問われる場合もあり、暫定任意適用には労働者の同意が必要です。
なお、労働者の希望による暫定任意適用の申請義務は、労災保険が過半数の希望で申請しなければならず、雇用保険が2分の1以上の希望で申請しなければなりません。
この過半数と2分の1の差がどこからきたのかは、私にはわかりません。
雇用保険については、昭和22年12月の成立時点の失業保険法を見ても、労働者の希望による任意包括加入は、労働者の2分の1以上の希望です。
労災保険についての暫定任意適用の規定を定めるのは昭和44年の整備法5条で、ここに労働者の過半数の希望による任意適用の申請義務規定もありますが、それ以前の規定がどうであったかは調べていません。
労災保険法は国会成立前の法律ですから、当初の形がどうであったのかを調べると目が痛くなる(笑)ので。
でもまぁ、いずれにせよ5人未満ですからね。
4人であれば、過半数→3人、2分の1→2人
3人であれば、過半数→2人、2分の1→2人
2人であれば、過半数→2人、2分の1→1人
1人であれば、過半数→1人、2分の1→1人
違いがあると言えば、ありますけど・・・ね。
蛇足です。
テーマは違いますが、暫定任意適用に興味があれば、下記もご覧ください。
労災保険の強制適用の範囲の拡大の歴史と、今でも暫定任意適用が残っている理由を説明しています。
http://smon-hiroba.net/sr/bbs_each.php?rcdId=1872
参考になった:4人
poo_zzzzz 2020-09-17 00:42:17
poo_zzzzzさま
ご丁寧にかつ迅速にご回答いただき、ありがとうございます。
わかりやすい解説で、非常に良く理解出来ました。
また、poo_zzzzzさまの碩学さに驚嘆いたしました。私は初学者なのですが、流石にひとまずの試験合格にはpoo_zzzzzさまのようなレベルは求められませんよね(T_T)
加入申請義務の発生要件の相違には特に理由はないのですね!びっくりしました。ただ受験生を苦しめるためだけにそうなっているかのようですね。なぜ統一できないのか。。。
こういう意味のない差異は他の事項にも頻出すのでしょうか。そうなると飲み込みの悪い私には辛いですが、これから学習を進めながら、考え、発見していきたいと思います。
また、私の力が及ばないときにはご助力いただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願い致します。
Wasur3na1id 2020-09-17 23:14:15
そうですね。
私は、受験のために制度趣旨を整理し、記憶を定着させる場合に、自分なりの理屈づけをすることには反対しません。
その真偽は別にして、立てた仮説がテキストの内容と過去問に矛盾しないなら、それを正として扱って受験の役に立つからです。
ただ、制度がなぜそうなっているのかというテーマは、制度の成り立ちからその後の時代の流れによる変遷、その間の社会風俗や労働慣習の変化が大きく関係し、今現在の視点からみても分からない部分が多くあります。
これを調べようと思うと、制度改正の変遷を追い、場合によっては、例えば労働政策審議会の議事録を読む、といった作業が必要になります。
また、改正前の条文を調べるのは案外難しく、例えば官報で調べる場合、制定時の法令は調べられますが、その後の改正は、多くの場合改正法と呼ばれる「法令を書き換える法令」によって行われ、書き換えた後の条文は官報には載らないため、ある時点の条文を知るのは結構面倒だったりします。
かといって、毎年出版される分厚い労働法全書を、捨てずに何十冊持ち続けるのは現実的ではないですしね。
特に昭和22年5月2日以前に定められた法律(健康保険法、労働3法及び労災保険法)は現在の官報に無いため、制定当初の条文を調べること自体が骨です。
と、いうことで、何が正しいのか?という追求は受験対策として現実的ではありません。
受験対策としては仮説の正誤そのものが問題ではなく、理解や記憶の助けになればそれでいいのだ、と割り切ることをお勧めします。
ただ、労災保険法については、元々労働基準法に業務災害補償の規定があり、それを担保するための保険である、という点は重要です。
事業主は、退職後に求職中の労働者の生活を支える義務はないですから、雇用保険法に代わるものを事業主は手当する必要がありません。
退職金も、事業所に規定がなければ支払う義務がありません。
これを労働者の立場から見れば、退職後の求職時の生活について、事業主に期待できるのは雇用保険の加入しかないということです。
ですから、任意適用事業所で労働者の希望があった場合に、事業主に加入義務を課すことは、制度の必然であったのではないかな?と思います。
しかし、労働基準法に業務災害の補償規定がありますから、労災保険がなくても、業務災害は、事業主が労働者に補償しなければならないのです。
これを労働者の立場から見れば、労災保険がなくても事業主に補償してもらえば良いと言うことです。
制度が制定された当時の労災保険は、年金制度も通勤災害に対する給付もなく、労働基準法による補償に比べて大きなアドバンスはありませんでしたしね。
事業主と労働者の関係においては、この点で、労災保険と雇用保険は大きく違います。
このため、労災保険と雇用保険の任意加入の制度が共通である必然性は、もともとなかったのだと思います。
むしろ、労働基準法と労災保険法の関係を考えた時に「過半数」という括りを使うことに、私は合理性を感じます。
ただ、当初は年金制度がなく、労働基準法の補償水準に近かった労災保険も、昭和40年代に年金制度が導入され、通勤災害の給付が始まり、労働基準法の補償水準より大幅に充実した制度になりました。
これにより、任意加入の場合の労働者の希望による加入義務の必然性は、制度成立当時より大幅に高くなりました。
かつ同じく昭和40年代に保険関係の成立を共通で徴収法で扱うようになったため、今の私たちから見たら、「違うのはなぜ?」と思えてしまうのは、仕方ないですね・・・
参考になった:3人
poo_zzzzz 2020-09-20 09:46:36
poo_zzzzzさま
さらなるご親切な返信いただきまして、ありがとうございます。
アドバイスに従い、最短合格を目指して行きたいと思います。
また、労働者の視点からの対事業主との関係性の詳解のお陰で、当初の疑問であった加入申請義務における労災保険と雇用保険との相違についても腑に落ちました。
本当にありがとうございました。
Wasur3na1id 2020-09-21 01:01:20