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これは、できないんです。

法24条だけを見ればできるようにも見えるのですが・・・できないんです。

経緯を説明します。



もともと、労働基準法は、銀行や郵便局といった金融機関の口座への振込(以下「銀行振込」といいます)による賃金の支払いを、想定していませんでした。

仮に昭和50年以前にこれを行っていた会社があったとしても、労使共に法令違反の認識はなかったはずです。

そういう会社は、「日本円で払っているし、本人の口座に振り込んでいるから、通貨払も、直接払も満たしてるでしょ?」と、考えていたはずです。



ところが、昭和40年代後半から銀行振込が普及しだすと、「通帳と印鑑を持って銀行行くの不便だし、ちゃんと現金で直接払ってよ。これは労働基準法違反じゃないの?」という声があがってきたのです。

キャッシュカード、クレジットカード、インターネットバンキングが、当時から今のように普及していたら、何事もなくスルーされた問題かも知れませんね。

そこで昭和50年に通達 (基発112号)が出て、個々の労働者本人の同意がある等の要件を満たせば、銀行振込による賃金支払いは、法24条違反ではない、という行政の見解が示されました。

当時の法24条とそれをめぐる施行規則には、銀行振込による賃金に関する規定はなかったのですが、通達だけでOKにしたのです。

これは、当時の行政自身の認識が、「銀行振込による賃金支払は通貨払いの原則に反するとまでは言えず、法24条違反とまでは言えない。しかし、若干の不便を労働者に強いるために問題が起きる可能性はあるから、問題が起きないように通達で指導しよう」という認識であったことを示します。

労働基準法コンメンタールにも「銀行口座への振込みは、「労働者の意思に基づいているものであること、労働者が指定する本人名義の預金又は貯金の口座に振り込まれること及び振り込まれた賃金の全額が所定の賃金支払日に払い出しうること」の要件を満たす限り、本条に違反しないと解されてきた」との文言が見えます。

つまり、当時の行政は、銀行振込による賃金支払を、通貨払の原則の例外として認めていたのではなく、「銀行振込による賃金支払は通貨払いの原則違反である」という認識そのものが乏しかったのです。

もし、「銀行振込による賃金支払は通貨払いの原則違反である」というはっきりとした認識が行政にあれば、この時点で通貨払いの原則の例外を追加する法改正と施行規則の整備を行ったはずです。



ところが昭和年代後半にあった裁判の判決(確か高裁だったと記憶しています)の判決文に、当時の行政にとって問題のある部分がありました。

該当する判決が検索できなくて、曖昧で申し訳ないのですが・・・

その判決は、基本的には昭和50年の通達の内容を追認する内容でしたが、その中に、「口座払は労働者に不便があるから、一般的には通貨払の原則違反であり、労働者の同意等があれば許容されるが、それがないときは法24条違反」といった趣旨の内容があったのです。

行政としては、今まで「直接払いの違反とまでは言わないけど、労働者が不便だから、通達による指導に従ってね」程度に思っていた曖昧な部分を、司法に「通達に定めた方法でなければ通貨払の原則違反で法24条違反」だと明確に指摘されてしまったのです。

ところが、当時の法24条の通貨払いの原則の例外は「法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合」しかありませんでした。

つまり、すでに出されて通用してしまっている通達があるにもかかわらず、その根拠となる法の規定がなかったのです。

法に根拠がなければ、通達に従うことによって法違反を免れることは、それ自体がおかしいですよね?

そこで、昭和60年改正で、法24条に「又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合」を追加し、また則7条の2に銀行振込による賃金支払いの手続きを具体的に定めたのです。



つまり、この問題は、

(1) もともと行政は、銀行振込による賃金支払を、通貨払いの原則違反とまではいえないと考えていた。
(2) このため、銀行振込による賃金支払には、労働協約は関係がない。
(3) しかし労働者に若干の不便を強いるので、昭和50年に通達を出し、銀行振込による賃金支払は個々の労働者の同意を得ることを義務づけた。
(4) 裁判所の判決を受け、現行の通達が法に沿うように法24条を改正し、施行規則を改正した。

と、いうことです。

従来から行ってきた、通達による銀行振込による賃金支払の方法が、直接払いの原則の例外であることに法の根拠を持たせるために、法改正をしたのです。

本来は、法令に沿って通達が出るはずですから、逆ですね。

そういう経緯ですので、銀行振込の方法は、則7条の2と、通達(H10.9.10基発530号、H13.2.2基発54号、H19.9.30基発0930001号)によらなければなりません。

このため銀行振込による賃金支払は労働協約のみではできず、書面による個々の労働者の申出又は同意がなければ開始できないことになっています。

この同意については、労働者の意思に基づくものである限りその形式は問わないものであり、労働者が賃金の振込み対象として銀行その他の金融機関に対する当該労働者本人名義の預貯金口座を書面で指定した場合は、特段の事情のない限り同意が得られているものと解されています。



法24条の条文が「法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては」になっているので、質問された方がどちらでも良いのか?と、思われたことには無理がありません。

しかし、そうではなく、銀行振込による賃金支払は、労働協約ではできないのです。

法令上の「又は」にはこのようなケースが少なくありません。

例えば安衛法14条の作業主任者の選任は、「都道府県労働局長の免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者のうちから」となっています。

「又は」ですから、常に免許と技能講習修了のどちらでも良いように見えますが、そうではありません。

例えばボイラーであれば、大まかに言うと伝熱面積3㎡以下であればボイラー技能講習修了で作業主任者になれますが、それを超えるとボイラー技士免許が必要になります。

法令にはこのように、「A又はB」と書かれていても、常にどちらでも良いという訳ではなく、ケースによってA又はBのどちらかに限られる場合があります。

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poo_zzzzz 2016-12-09 10:59:31

返信が遅くなってしまって申し訳ないです。

あーやっぱり個々の労働者の同意は必要なんですね。

どうも問題を解いてみたり自分で調べてみた感じだと、個々の労働者の同意がなければダメのように書かれているのですが、
法24条を見る限りでは労働協約があればOKのように読めるので、ん~(;一_一)といった感じでした。

釈然としなかったので確認をと思って質問したのですが、経緯も知ることができ質問してよかったです。

回答ありがとうございました。

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CooooL  2017-01-02 18:16:25



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