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昭和56年10月30日基発696号通達より抜粋

2 (4) イ
被災労働者又はその遺族が同一の災害に関し逸失利益、療養費又は葬祭費用を損害項目とする民事損害賠償を受けたときに、それぞれの損害項目に対応する保険給付が支給調整されるものである。

2 (4) イ(ロ)
「療養費」とは、傷病の治療に要する費用である。狭義の治療費のほか、通院費、付添看護費用、入院雑費等が含まれることがある。療養費に対応する保険給付は、療養補償給付及び療養給付(第3において「療養(補償)給付」と略称する。)である。

2(6)ロ
療養費
 労災保険の療養(補償)給付の範囲は、健康保険等の場合と同じように、一定の範囲内の療養についてカバーするようなしくみになっており、民事損害賠償の側で治療費等の範囲に含まれるものであっても、これに見合うものが療養(補償) 給付の療養の範囲に含まれないこともあるので、支給調整に当たっては、民事損害賠償の算定対象とされた療養費に見合うものであるか否かの判定が必要である。
 事業主から行われる療養費の賠償がありうるとしても労災保険の療養(補償)給付で認められていない入院雑費、付添看護費用の一部等を補てんするために行われる場合が多いので、このような場合は、いわゆる「上積み賠償」として、療養(補償)給付の支給調整を行う必要はない。
 しかしながら、当事者間での示談書等の文書により労災保険の療養(補償)給付に見合う分を含む民事損害賠償が行われたことが明らかな場合には、その見合う分の限度で賠償時における未払分の療養(補償)給付の支給調整を行うものである。
 したがって、労災保険の療養(補償)給付相当分について支給調整を行うこととし、事業主から支払われた療養費の中に労災保険の療養(補償)給付の範囲外のものが含まれている場合には、その部分は調整対象額に含めないものである。



上記のように療養(補償)給付全体が調整対象であり、民事損害賠償の内容が労災保険の療養(補償)給付に見合う部分であるかどうかは、療養(補償)給付の調整の対象になるかどうかという点で問題になりますが、労災保険側の支給方法として、療養の給付であるのか療養の費用の支給になるのかは、調整と関係がないようです。

そもそも療養(補償)給付は、療養の給付であり、療養の費用の支給は、療養の給付を行い難いときの「支給方法としての選択肢」ですので、調整対象になるか否かで区別されることはないように思います。

もし、これを区別するとするなら、民事損害賠償の内容に療養(補償)給付に見合う部分があり、療養(補償)給付が調整の対象になる場合に、町中に住んでいて指定病院に通う場合の療養の給付は調整されないが、離島等に住むために指定病院等がなく、療養の給付を受けられない場合は療養の費用が調整されるという不合理があります。



なお、療養費に関して行われた民事損害賠償は法附則64条2項の調整の対象ですが、上記通達の2(6)ロに「事業主から行われる療養費の賠償がありうるとしても労災保険の療養(補償)給付で認められていない入院雑費、付添看護費用の一部等を補てんするために行われる場合が多いので、このような場合は、いわゆる「上積み賠償」として、療養(補償)給付の支給調整を行う必要はない。」とあるように、調整対象としてはあまりない部分であると考えられており、「当事者間での示談書等の文書により労災保険の療養(補償)給付に見合う分を含む民事損害賠償が行われたことが明らかな場合」のみ、調整の対象と考えているようです。

そもそも労災保険は事業主が全額保険料負担する保険であり、事業主が故意又は重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故等の場合を除き、事業主に民事上の損害賠償責任があるからといって、その賠償責任がある部分を給付しない、という考え方が労災保険にはありません。

これは、業務上災害の場合は、労働基準法上の無過失責任による補償義務が事業主に生じ、この場合に同時に事業主に民事上の賠償責任が生じて、法律上2種類の補償責任が事業主に生じるとしても、同じ項目に対する補償額が増えるわけではなく、労災保険が本来給付する部分については、事業主が全額保険料負担する労災保険が給付しても矛盾がないからです。

だから、基本的には労災保険が給付する、で良く、法附則64条の目的は、事業主が全額保険料負担している労災保険の給付と、事業主からの直接の民事損害賠償が、二重填補になることを防ぐことのみにあります。



法附則64条は昨年の大法廷判決があったので、それに関連する部分については要注意ですが、全体としてはテキストに載る範囲を抑える程度で十分であり、深入りする部分ではありません。

参考になった:3

poo_zzzzz 2016-12-12 11:05:02

大変詳しく解説いただき、ありがとうございました。
制度そのものの考え方も再確認でき、参考になりました。

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kampfer  2016-12-12 11:33:42



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