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貨物運送に当たって荷送人が貨物に保険を掛けたとしましょう。
そして運送人(運送会社)の過失で貨物が紛失したとします。
この場合、保険会社は保険金を荷送人に支払い、保険会社は荷送人が運送人に対して持つ損害賠償請求権を、法律上当然に代位取得します。
しかしこのような保険には第三者求償権放棄特約が付されている場合が多く、特約がある場合は保険会社は荷送人に対する求償権を放棄しますので、運送人は損害賠償請求されません。
その場合でも代位取得は法律上当然に起きていますから、代位取得した保険者が求償権を放棄したからといって、その部分の損害賠償請求権を荷送人が行使できるわけではありません。

これは保険代位の場合の求償権の放棄について、貨物運送の保険の例で書いたものですが、労災保険のお尋ねの部分も同じ考え方だと思います。

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poo_zzzzz 2017-03-14 18:54:52

代位取得した権利が恒久的なものではないと勘違いしておりました。
政府が求償を打ち切るとは、代位取得した求償権を3年経過以降は行使しないという意味合いだったのですね。
非常に分かりやすいご説明、ありがとうございました。

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iwamaki1953  2017-03-15 07:09:06

保険代位のうち、損害賠償請求権の代位は保険法25条で定められており、その意義は、債権者の二重利得の防止です。
保険法は、その適用範囲が「他の法令に定めるもののほか」となっていますので、労災保険法が定める部分は適用除外であるため、労災保険法12条の4第1項が損害賠償請求権の取得を定めていますが、代位の趣旨は同じで、債権者(労災保険法12条の4第1項の場合、被災労働者)の二重利得の防止です。

質問された方は、この損害賠償請求権の代位の意義以前に、基本的な部分で思い違いをされているように思います。おそらく労災保険法12条の4が理解できていません。

話をややこしくしないために労災保険が保険給付すべき部分に限って考えます。

政府の損害賠償請求権の代位取得は、労災保険法12条の4第1項により「保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で」生じます。このため被災労働者が持つ損害賠償請求権のうち、政府がまだ保険給付を行っていない部分については、損害賠償請求権の代位取得そのものが生じていません。

このため、被災労働者が元々持っていた損害賠償請求権のうち、政府がまだ保険給付を行っていない部分については、被災労働者が権利を行使することが可能であり、被災労働者が第三者に請求することが可能です。

そして、第三者がこの請求に応じて損害賠償した場合は、労災保険法12条の4第2項により、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができます。(保険給付の控除)



まとめると、

すでに政府が保険給付を行った部分については、損害賠償請求権の代位は法律上当然に起きるので、政府が代位取得した損害賠償請求権による求償を放棄したとしても被災労働者の権利関係に変化はない。

いまだ損害賠償が履行されていない部分については、政府が保険給付を行った場合はその部分の損害賠償請求権を政府が代位取得し、第三者が損害賠償した場合は、政府はその部分の保険給付を控除することができる。

ただ、それだけの関係です。

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poo_zzzzz 2017-03-15 12:19:42

損害賠償請求権が被災者側か政府かのどちらかにしか属し得ない、不可分なものであると考えておりました。
政府は給付を行っていくほどにその相当額分の請求権を代位取得(求償権)という形で得て、被災者側は損害賠償額から給付済み額を控除した額について常に請求権を行使することができるという認識でいいのでしょうか?

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iwamaki1953  2017-03-16 08:04:30

被害者が持つ損害賠償請求権は、民間の保険の場合も労災保険の場合も、保険給付の価額の限度で代位されますので、理屈で言えば、代位されていない部分については被害者が加害者に損害賠償請求できます。

労災保険ではなく、民間の損害保険の場合でいうと、保険法25条1項は、基本的に保険者が保険給付を行った額の限度で当然に被保険者に代位するという趣旨のことを言っています。やはり「保険者が保険給付を行った額の限度」です。

そして同条2項は、保険者が保険給付を行った額がてん補損害額に不足するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有するとあり、つまり、質問された方が再質問されたような、保険者に代位されていない損害についての加害者から被害者への弁済は、保険者に代位された部分の弁済に優先するとはっきり書かれています。

労災保険法の場合は、代位されていない部分の扱いは書かれていませんが、同法12条の4第1項には、「・・・保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で・・・損害賠償の請求権を取得する」とありますから、未支給部分の保険給付についての代位取得はあり得ません。

でも仮に被災労働者が第三者に直接損害賠償請求して、第三者から補償を受けたところで、それはすぐに監督署に報告しなければならず、その内容が労災保険と重複する場合は、労災保険の保険給付が控除されますから、被災労働者のメリットは薄いでしょう。重度の障害や死亡の場合、前払一時金制度が利用できることから考えても、手間暇掛けて第三者と交渉するメリットはないと思われますし、下手な示談をすると労災保険からの保険給付が100%受けられなくなってしまいますから、実務的な意味は薄いと思います。

参考までに第三者行為災害の場合に監督署に出す念書のひな形を記載しておきます。「私が労災保険給付を受けた場合には・・・被害者請求権を、政府が労災保険給付の価額の限度で取得し」と書いてあるでしょう?あくまで代位取得は、「行われた保険給付の価額の限度」なのです。

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1 上記災害に関して、労災保険給付を請求するに当たり以下の事項を尊守することを誓約します。
(1) 相手方と示談を行おうとする場合は必ず前もって貴職に連絡します。
(2) 相手方に白紙委任状を渡しません。
(3) 相手方から金品を受けたときは、受領の年月日、内容、金額(評価額)を漏れなく、かつ遅滞なく貴職に連絡します。

2 上記災害に関して、私が相手方と行った示談の内容によっては、労災保険給付を受けられない場合があることについては承知しました。

3 上記災害に関して、私が労災保険給付を受けた場合には、私の有する損害賠償請求権及び保険会社等(相手方もしくは私が損害賠償請求できる者が加入する自動車保険・自賠責保険会社(共済)等をいう。以下同じ。)に対する被害者請求権を、政府が労災保険給付の価額の限度で取得し、損害賠償金を受領することについては承知しました。
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また、現実問題として、被災労働者の意思と別のところで、類似したことは頻繁に起きています。
仕事中の交通事故の場合、第三者本人と、自動車保険(自賠責保険含む)と、労災保険の調整になります。
この場合、監督署の窓口は、ほぼ100%、自動車保険(自賠責保険含む)先行を指導します。そうしておけば、自動車保険部分は100%控除されるので監督署の事務が軽減されるからであり、また、補償費用の源泉という観点から見ても、事業主が保険料を払う労災保険よりも、第三者が保険料を支払う自動車保険が先行すべきと考えられるからです。

この場合でも、労災保険が保険給付すべき債務のすべてを対象とする示談をしない限り、控除した部分を超えた労災保険の保険給付は行われますし、また、例えば自動車保険からの支払額が大きく、控除すべき額が多額になる場合でも、7年経過すれば年金は支給されます。

控除すべき額が大きい場合でも、7年経てば年金給付が行われる経緯は下記資料をご覧ください。これは控除期間が3年から7年に延長されたときの資料ですが、同時になぜ控除期間を限定しているのか?、と、なぜ改正後7年なのか?も解る資料になっています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002ycyt-att/2r9852000002yd4m.pdf

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poo_zzzzz 2017-03-16 11:22:04

試験対策としてはそれほど不要であろう部分に、実務的な部分にまで渡り丁寧にご教示いただけるとは思いませんでした。
また控除期間の改正にまで言及していただいたことで、遺族年金の支給額にまで話を繋げることができ、保険制度の理解を全体として深めることができました。
学習中に生じた些細な疑問でしたが、おかげさまで忘れることのできない制度になりそうです。
長々とお時間を頂戴し、誠にありがとうございました。
また学習上で疑問が生じた時には、ご助力いただければと思います。

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iwamaki1953  2017-03-16 13:24:26



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