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民法/賃借権は抵当不動産の競落人に対抗できるか
Harry 2025-02-28 19:40:09
ある問題集をやっていたところ、以下の問題に遭遇しました。(1)(2)は相反する回答のように思えます。どちらが正しいのですか。或いは読み方が誤っているのですか。
(1)AがBから甲土地を賃借し、その賃貸借について対抗要件が具備されている場合において、その後にAが甲土地上に所有する乙建物に抵当権を設定した。乙建物に設定された抵当権が実行され、Cが乙建物を競落した場合に、Cは、Bの承諾又はこれに代わる裁判所の許可を得なくても、Bに対し、甲土地の賃借権を取得したことを主張することができる。 【誤り】
(解説)民法612条1項、借地借家法20条1項。賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない(民法612条1項)。その上で、借地借家法20条1項は、「第三者が賃借権の目的である土地の上の建物を競売又は公売により取得した場合において、その第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、その第三者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、借地条件を変更し、又は財産上の給付を命ずることができる。」と規定している。その趣旨は、建物競売・公売の場合にも、賃貸人の承諾が必要であるが、その承諾を得られない場合であっても、これに代わる裁判所の許可による賃借権の譲渡を認めることで、譲渡の自由性を促進する点にある。よって、Cは、賃貸人Bの承諾又はこれに代わる裁判所の許可を得なければ、Bに対し、甲土地の賃借権を取得したことを主張できない。
(2)判例の趣旨によれば、土地の賃借人の所有する建物に設定された抵当権が実行された場合には、その建物の敷地の賃借権は、その土地の所有者の承諾を条件として競落人に移転する。 【誤り】
(解説)借地上の建物を目的とする抵当権はその敷地の賃借権に及び、抵当権の実行により、その賃借権は建物とともに競落人に移転する(最判昭40.5.4)
Harryさん、こんにちは。
この論点は、最初は誰もが混乱するところですが、とても重要で、必ずその区別をしておかなければならないところです。
まず、Aが建物所有権に抵当権を設定した場合、その抵当権の効力は従たる権利である敷地利用権(賃借権)に及びます。
これは、「従物は、主物の処分に従う。」という87Ⅱ類推適用を根拠とします。
そこで、当該抵当権が実行された場合、買受人(競落人)Cは、当該建物所有権とともに土地賃借権も取得します。
この取得には、土地所有者Bの承諾が条件となっているわけではありません。
したがって、「土地の所有者の承諾を条件として競落人に移転する」となっている(2)は、【誤り】となります。
一方、賃借権の譲渡については、賃貸人の承諾が必要となっており(612Ⅰ)、競売による買受人が、当該賃借権取得を賃貸人に対抗するためには、賃貸人の承諾を得ることが必要となります (承諾が得られない場合は、これに代わる裁判所の許可が必要)。
つまり、賃借権の取得そのものについては、賃貸人の承諾は要求されていませんが、当該取得を賃貸人に対抗(主張)する(今後、自らが賃借人の地位を有すること及び賃借人としての法的権利を主張する)ためには、その承諾が必要といういうことになります。
したがって、賃貸人Bの承諾又はこれに代わる裁判所の許可を得なくても、Bに対し、「甲土地の賃借権を取得したことを主張することができる。」かを問う(1)は【誤り】となります。
よって、買受人による賃借権の取得そのものを問題にしているのが(2)であり、その取得を賃貸人に対抗(主張)できるかを問題としているのが(1)という区別になります。
講師 小泉嘉孝
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koizumi1 2025-03-02 15:03:50