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民法/「特定の法律行為の委託」の意味
oyajisan 2017-11-01 09:05:17
平13-1-エについて、全ての予備校の解説が、「ガン予防薬の購入」というだけでは、指示内容としては、抽象的であるから「特定の法律行為の委託」(民法101条2項)があったとは言えないとしています(なお、至って相対的概念であるにもかかわらず、「何と比べて抽象的なのか」について明示されていません)。「本人の指示」を緩やかに考えるのが判例や通説であるのに、司法書士試験において、なぜ、これと異なる立場を前提に、正誤を判断しなければならないのでしょうか?
oyajisanさん、こんにちは。
101条 意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
2 特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。
この101条2項の内容として、まず①本人から代理人に対して「特定の法律行為」が委託されていることと、②代理人が「本人の指図」に従ってその行為をしたことが、論点として取り上げられます。
このうち②については、判例は、「特定の法律行為」の委託があれば、「本人の指図」があったことは要件としない(大判明41.6.10)としており、改正後の民法では、当該部分が削除されています。
しかし、少なくとも判例の解釈に従えば、①の本人から代理人に対して「特定の法律行為」が委託されていることは、要件として否定されておらず、あくまで②の基準とは別個に判断しなければなりません。
そこで、この「特定の法律行為」の内容が問題となりますが、この基準についての判例はなく、第13条第1項各号に列挙された行為のような特定の類型の法律行為という意味で用いられている(「民法[債権法]大改正要点解説」P37)という見解も示されています。
仮にこの「特定の類型の法律行為」で足りるという基準に従って判断するならば、「ガン予防の薬品の購入を委任」するのは、特定の法律行為をすることを委託した場合に該当するといえます。
しかし、本条の趣旨は、代理権の範囲が狭くなって実質的に本人が意思決定をして、代理人はそれに従って動くだけになると、事実上意思決定の際に代理人の意思が介在する余地が小さくなるため、本人側の事情を基準に、「善意」「無過失」等を判断するというものです。
ならば、本来、代理人は広く意思決定が可能であることからすると、101条2項の適用範囲は、その大部分の意思決定は本人によるもので、代理人が行った意思決定の範囲が狭いものとなっている必要があるといえます。
そして、平成13年第1問(エ)は、他の肢との関係からすると、厳格に上記基準を当てはめなければ、組合せ問題として、正解を導くことができないと判断します。
たとえば、私が会社の上司から風邪薬の購入を委任された場合を想定してみると、薬局に置いてある何種類もある風邪薬の中から、私が適当と思われるものを独自に判断したのであれば、私の意思決定の範囲が狭いとはいえず、逆にカイゲンファーマ株式会社の「改源」と上司から指定されているのであれば、意思決定の範囲は狭いといえます。
そこで、平成13年第1問(エ)では、「ガン予防の薬品の購入を委任」しているが、「ガン予防のC社製造の甲薬品を購入することの委任」をしたわけではないため、特定の法律行為をすることを委託した場合に該当せず、詐欺の成立については、原則どおり、代理人を基準に判断することになります。
では、さらにどこの薬局で「改源」を購入するかを指定されていなければ、101条2項の適用はないかというと、これが上記の「本人の指図」までは必要ないということになります。
講師 小泉嘉孝
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koizumi 2017-11-02 14:32:03
回答有難うございました。
しかし、悪いですが、納得がいきません。
何と比較して具体的か、抽象的かを明示しない以上、結論を先取りして、本人に効果を帰属させたくないから抽象的としてみたり、効果を帰属させたいから具体的とすることが可能となり、択一問題としては相応しくないと思います。
本肢の場合、判例や通説を前提にして、当該クスリを代理人が購入したのは本人から「ガンの予防薬」の購入を依頼されたからであり、その行為の効果は、本人に帰属するとした上で、民法101条2項により主張できる本人側の事情は、代理人が当該行為を行った時点の事情のみである(当該行為後の事情は主張できない)と考えれば、代理人が当該行為をした時点で本人は、代理人が購入したクスリが何かを認識していない(本人は、買ってきたクスリは、これだと示されて初めて、ガン予防薬として効果のないクスリを買わされたという事実を認識できた)から、「当該クスリが、ガンの予防薬として効果がない」という事実を、本人が知っていたとしても主張できない。従って、民法99条1項により、当該代理行為を取消すことができる。
このように考えるべなのではないでしょうか?
oyajisan 2017-11-02 15:22:40
oyajisanさん、こんばんは。
oyajisanさんの法律構成は、本肢も代理人Bは本人Aから「特定の法律行為」をすることを委託されており、一応101条2項の適用要件は満たしているが、代理人Bが当該法律行為(売買)をした時点で本人Aは、甲薬品がガンの予防に効果がないことを知っていたとしても、代理人Bが購入したクスリが何かを認識していないため、本人Aが、「自ら知っていた事情」(101Ⅱ)なるものは存在せず、結果として、101条2項の適用場面ではない。
そこで、単純に99条1項のみが適用され、詐欺を理由とする取消しが認められる、ということでしょうか。
そもそも、詐欺の成立は、相手方の欺罔行為によって錯誤に陥り、これに基づき意思表示をしたか否かを基準とします。
そこで、売買契約成立時点で、買主側が「甲薬品がガンの予防に効果がないことを知っていた」か否かという事情は、詐欺の成立を判断する上で欠かすことのできない要素ということになり、その事情の有無が、代理では101条によって決定されることになります。
つまり、101条への当てはめに際しても、売買契約成立時点で、代理人Bや本人Aが、(代理人Bが実際にCからどの薬品を購入したのか本人Aが認識しているか否かにかかわらず)「客観的に売買の対象となった甲薬品がガンの予防に効果がないことを知っていた」か否かという事情を基準に行うべきといえます。
また、代理行為として、代理人が相手方と売買契約を締結する以上、その契約締結時点で、代理人が実際にどの薬品を購入したのか本人が認識していないというのは、本人がその場に同席しておらず、事前の確認もなされていなければ、通常だといえます。
よって、「甲薬品がガンの予防に効果がない」という事実を本人Aが知っていたとしても、101条2項の適用がなく、99条1項及び96条1項により詐欺の成立とその取消しを認めるという結論部分は同じになりますが、101条2項の適用がないことの根拠として、当該売買契約成立時点で代理人Bが実際にどの薬品を購入したのかについて本人Aがその認識を欠くことを理由とするのは難しいと考えます。
講師 小泉嘉孝
koizumi 2017-11-02 20:43:18