ニックネーム | *** 未ログイン ***
労災保険法/打切補償のみなし適用
m.tanaka 2018-10-31 08:54:37
打切補償のみなし適用についてご教示ください。
労災保険法第19条では、次の場合に打切補償のみなし適用があります。
①負傷、疾病にかかる療養の開始後3年を経過した日に傷病補償年金を受けている場合
②負傷、疾病にかかる療養の開始から3年を経過した後に傷病補償年金を受けることとなった場合
他方、労働基準法81条では、療養開始後3年を経過しても負傷、疾病が治らない場合は平均賃金の1,200日分を支払うことで補償の打切りができると規定されています。
<質問>
1.打切補償の考え方について確認させてください。業務上の負傷が原因で療養を開始し3年間仕事に就けず(その間休業補償を支払い)その後に打切補償を行うケースを労基法だけで考えると、打切補償を行うときはそれまでの3年間に支払った休業補償分は差し引いて計算すると考えますが、正しいでしょうか?
平均賃金×(1×1200-0.6×3年間の休業日数)
※この場合の休業日数は所定労働日で計算する(休日を含まない)と理解していますが正しいでしょうか?
2.条文の数字を使って単純に計算すると、労基法の「平均賃金の1,200日分」と労災法の「休業補償給付の3年分(約1,100日分)」(上記の②の最短のケース)とでは、補償の額に
1200(1×1200):660(0.6×1100)くらいの開きがあるように思えますが、この理解で正しいでしょうか(バランスしていないように思えるのですが…)?
※この場合の休業補償給付の日数は暦日で計算する(休日を含む)と理解していますが正しいでしょうか?
打切補償は休業補償とは別です。
労働基準法上の災害補償を受ける場合に、事業主から療養補償と休業補償を受けながら療養し、2年と11か月で治り障害等級2級の状態になれば、事業主からそれまでの休業補償とは別に障害補償として平均賃金の1190日分を受けられるのに、3年間治らなければそれまでの休業補償分込みで(差し引いて)平均賃金の1200日分しか受けられないとしたら、おかしいでしょ?
法根拠 法77条、法81条、別表第二
参考になった:5人
poo_zzzzz 2018-10-31 12:53:41
m.tanakaさま
poo_zzzzzさんが的確に答えてくれていますが、補足します。
1→正しくありません。
2→比較する意味がありません(比較する対象として制度の趣旨が異なるからです)。
このような行政通達があります。
打切補償とは、業務上の負傷又は疾病に対する使用者の補償義務を永久的なものとせず、療養開始後3年を経過したときに打切補償を行うことにより、その後の使用者の補償責任を免責させようとするものであるから、いったん打切補償を行えば、療養補償及び休業補償はもちろん、障害を残した場合の障害補償又は死亡した場合の遺族補償及び葬祭料を支給する必要はないとする(昭28.4.8 基発第192号)。
→1について
打切補償というのは、負傷又は疾病が「治っていない」のですから、その後「将来も」療養や休業等を行うのが通常です。
その「将来」発生するこれらの損害に対する補償義務を、平均賃金の1,200日分を支払うことで免責するのが打切補償の趣旨です。
したがって、打切補償の「支払前(=過去分)」に発生した事由による休業補償の金額と、打切補償の支払額は全く無関係です。
過去の支払額にかかわらず、別途平均賃金の1,200日分を支払らなければ、それは打切補償とはいいません。
この控除が許されたらおかしいのは、poo_zzzzzさんが述べているとおりです。
→2について
①労災保険法の保険給付には打切補償の仕組みはありません。
つまり、支給事由がある限り、失権や支給停止事由に該当しない限り、生涯支給され続けます。
加えて、労災保険には特別支給金の制度があり、比較をするのにこれを加味しないのは片手落ちです。
②一方、打切補償は支払えば、以後の補償責任が免責されますので、生涯支給されないのが確実です。
また、②の場合でも打切補償支払時までの補償義務は消滅しませんので、これも加味しないとおかしいです。
また、打切補償の支払タイミングは、必ずしも3年経過時点のその時とは限りません(支払ったら以後免責されるにすぎない)。
よって、支給される期間によって①と②の額の総支給額はどちらかが高くなるかは変化します。
したがって、打切補償支払時までという期間で考えれば通常②の方が高くなる可能性が大きいですが、
生涯支給額となると、この支給期間や特別支給金といった他の前提条件が変化するファクターを持つ支給額同士を比較すること自体、あまり意味がある様に思えません。
ちなみに、この私の回答の知識は試験対策上は不要ですし、実務上も知っていてもあまり意味がないと思いますよ。
以上、宜しくお願い致します。
山川社労士予備校
三宅大樹
参考になった:5人
yamayobimiyake 2018-10-31 14:29:51
poo_zzzzzさま
三宅先生
ご指導くださりありがとうございます。
私、まったく思い違いをしておりました。
労働基準法の打切補償が労災保険法の補償で代用され、打切補償のみなし適用により補償が打ち切られてしまうようなイメージを持ってしまいました。
(「1,200日」と「3年間」とが期間として近いことと、「打切補償」の言葉のインパクトとで、そのような思考となったのだと思います)
1.につきましては、災害補償はそれぞれ別個のものであるが、打切補償を支払ったらそれ以外の災害補償は支払う義務がなくなる、ということですね。
理解できました。行政通達もお示しくださりありがとうございました。
2.は頓珍漢な質問で申し訳ありません。
打切補償のみなし適用があっても労災保険法の補償(傷病補償年金、障害補償給付など)はその後も継続されるから(国民年金や厚生年金が支給される時まででしょうか?)、
打切補償のみなし適用の時点で得られる労働基準法の補償と労災保険法の補償とを比較しても意味がないということですね。
それよりもむしろ、労災保険法の補償の仕組みを学ぶことで、労働基準法の補償内容をはるかに上回る充実さを理解すべき、ということがわかりました。
朝出勤前に投稿させていただいた質問について、帰宅時にはすでにご指導をいただけけていることに、大きな喜びを感じております。
それと同時に、みっともない思い違いをして質問広場の紙面(画面)を汚してしまったことを、申し訳なく思います。
今後も引き続き、ご指導のほどお願いいたします。 m.tanaka
m.tanaka 2018-10-31 22:25:10
労災保険法19条の規定は、実を言うと平成27年6月8日の最高裁判決(専修大事件)で、意味が変わっています。(解雇の是非についての高裁差し戻し判決の確定は平成29年7月27日)
この判決があるまで、労災保険からの療養補償給付・休業補償給付を受けて療養中の場合は、労働基準法75条の事業主の療養補償を受けているのではないから、労働基準法81条の打切補償の規定は適用されず、打切補償に相当する金銭を事業主が支払っても、労働基準法19条の解雇制限は解かれない、という考え方でした。
しかしこの平成27年の最高裁判決は、労災保険の給付があれば、労基法上使用者の義務とされている災害補償が実質的に行われていると言えること、打切補償を受けて解雇される場合も、傷病が治るまでの間は必要な給付を労災保険から受けられるため、労働者の利益の保護を欠くとはいいがたいことを理由として、労災保険の給付を受けている場合でも打切補償を行うことで、労働基準法19条の解雇制限は解かれる、と、判断しました。
つまり、この最高裁判決があるまでは、労災保険から療養補償給付を受けている場合に、労働基準法19条の解雇制限を解くためには、傷病補償年金の給付による労災保険法19条のみなし規定によって労働基準法81条の適用を受けるしかなかったものが、療養補償給付・休業補償給付を受けている場合でも打切補償を行うことにより労働基準法81条の適用を受けることができるようになり、労働基準法19条の解雇制限を解くことができるようになった、と、いうことです。
ただし、労災保険法19条による場合を除き、事業主は平均賃金の1200日分を支払わなければなりません。
それはともあれ・・・
> (国民年金や厚生年金が支給される時まででしょうか?)
は、いただけませんねぇ。
これが、受験される方でなければ、「違います」で終わりなんですが・・・
労災保険の保険給付が打ち切られたり失権する事由に、「障害基礎年金又は障害厚生年金が支給されることとなった場合」って、ありますか?
受験される方であれば、まず、ないものは「ない」という理解から入るべきだと思います。
もちろん見落としや別の法による例外はあるのですが、見えていないものを想像して誤ったイメージを作るより、今見えているもので制度のイメージを作り、知識の増加と精度向上と共にそれを補正するのが正しいように思います。(ちなみに労災の保険給付と基礎年金・厚生年金は併給され、労災側が減額されます。テキストで確認してください。)
また、その理由で、制度の全体像を正しく掴む努力はあったほうが学習が早く進みます。
私は、労災保険法を正しくイメージするためには、労働基準法75条から88条までを読んでおく必要があると思っています。制度の発足当時は、休業補償給付を除き労災保険の保険給付もほとんどが一時金だったのです。昭和40年代から年金化が拡大され、対象が通勤災害に拡大されました。それによって労災保険がずいぶん手厚くなったので分かりにくいのですが、基本は労働基準法の災害補償です。
また、徴収法の請負事業の一括も、根本にあるのは労働基準法88条です。
労働基準法の災害補償はほぼ試験に出ないので割愛されがちですが、「労災保険の制度の理解」の上では大切なのです。
参考になった:5人
poo_zzzzz 2018-11-01 07:54:49
poo_zzzzzさま
専修大事件の判決をお示しくださり、ありがとうございます。
労働基準法81条の「療養補償を受ける労働者が」にこだわるのではなく、労災保険法による給付で代替されていることを真正面から受け止めた、ということですね。
でもそれは労災保険法19条の打切補償のみなし適用とは別の扱いだから労働基準法81条の打切補償は当然必要ですという考え方、よくわかりました。
(「ただし、労災保険法19条による場合を除き、事業主は平均賃金の1200日分を支払わなければなりません。」と書き添えていただいたことで、考え方が整理できました)
労災保険の給付の終了については、テキストに何も書いてないので不思議に思っておりました。
賃金スライド制や、年齢階層別の最低・最高限度額の制度などから、「災害がなかったらこれくらいもらえていたはず」の給付がイメージできましたが、
それなら定年延長の65歳くらいで給付も終わるのだろうな、その後は社会保険にバトンタッチ、と想像してました・・・
まさに「見えていないものを想像して誤ったイメージ」なんですね。
異なる制度間の調整って難しそうですが、がんばって勉強します。
労災保険法の入り口は労働基準法の災害補償なので、流れを正しく理解しないとまた勝手な思い違いに走ってしまうから気をつけなさい、ということですね。
はい、心得ました。
ところで、「また、徴収法の請負事業の一括も、根本にあるのは労働基準法88条です。」とお示しいただいた箇所ですが、
ひょっとして労働基準法87条のことかと思いますがいかがでしょうか。(生意気な文面ですみません)
先生方の貴重なお時間をいただき、感謝いたします。 m.tanaka
m.tanaka 2018-11-01 08:35:21