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厚生年金保険法/加給年金額
aokisan 2020-07-11 15:21:40
いつもお世話になっております。
60歳台前半の老齢厚生年金で、加給年金額が定額部分にくっついて出てくるのにしっくりきません。
65歳以降定額部分がなくなっても出続ける点や、長期間被保険者であった年金生活者が家族を支えていくためのフォローである点を考えると、報酬比例部分に連動して出てくる方が自然なように思われます。
定額部分に連動することとされているのには、何か理由があるのでしょうか。
よろしくお願いします。
答えるのが難しい質問ですね(笑)
これは「男性で昭和16年4月1日以前生まれの者には60歳から年金が出ていました。今は出ないのはなぜでしょう?」というご質問と、本質的に同じで、政策的なテーマだと思います。
年金財政の悪化と少子高齢化の進展から、年金の支給額を削減し、高齢者の労働人口を高める必要が生じました。
このため60年法改正で老齢厚生年金を65歳から支給される報酬比例部分だけの年金とし、定額部分は自営業者等と共通で65歳からの老齢基礎年金としたのです。
これがいわゆる新法です。
このため、大正15年4月2日以降の生まれの者は、65歳まで老齢の年金を受け取ることができなくなりました。
しかし、この改正は、
(1) 年金の受給開始年齢を60歳(女性は55歳)から65歳に引き上げる。
(2) 報酬比例部分の給付単価を約75%に落とす。
(3) 定額部分の給付単価を約54%に落とす。
という非常に厳しい内容でした。
もし、これを生年月日の1日違いで実施したら、大変なことになります。
そこで国は、特別支給の老齢厚生年金(60歳代前半の老齢厚生年金)という制度を法附則に設け、そういった過激な変化を緩和したのです。
まず国は、
大正15年4月2日~昭和2年4月1日生まれの者には、旧法と同じ給付単価の年金を、旧法と同じ年齢から支給する。
そこから20年掛けて、ゆっくりと給付単価を上記(2)(3)の水準に落とす。
という第一段階の激変緩和措置をとりました。
このため、新法施行当初に受給権を得た者は旧法と同水準の年金を受け、その後、受給開始年齢は旧法のままだが、給付単価がゆっくり下がっていく、という状況が続きました。
この時に支給されていた年金は旧法と構成は同じですから、報酬比例部分、定額部分、加給年金額(要件を満たす場合)がすべて60歳(女性は55歳)から支給されました。
そして第2段階として、
女性について、昭和7年4月2日以降生まれの者について受給開始年齢を56歳から60歳にゆっくりと引き上げ、昭和15年4月2日~昭和16年4月1日生まれの者は、受給開始年齢が男女とも60歳で揃いました。この時点の年金は、給付単価は大分下がっていますが、その構成は報酬比例部分、定額部分、加給年金額(要件を満たす場合)で、旧法と同じです。
そして第3段階として、昭和16年4月2日以降生まれ(女性は昭和21年4月1日生まれ)以降の者について、報酬比例部分は60歳から支給するが、定額部分と加給年金額については受給開始年齢を61歳、62歳・・・と引き上げる措置を設けました。
第4段階として報酬比例部分の受給開始年齢の引き上げがあるのはご存じの通りです。
こういった措置は、最初に書いたように年金財政の悪化と少子高齢化の進展から、年金の支給額を削減し、高齢者の労働人口を高める必要があって行っています。
現行の年金制度は本則としては旧法に対して上記(1)(2)(3)のような年金です。
それを一昼夜で実施したら大混乱が起きるため約40年の年月を掛けてゆっくりやろうとしています。
簡単にいうと「65歳未満でも旧法年金を支給し続けて、40年掛けてゆっくりと給付内容と給付年齢を新法に近づけてやる」ということです。
その意味から言えば、上記の第3段階を実施するときに、報酬比例部分と定額部分を一緒に支給開始年齢を引き上げても良かったはずです。
それなら、今回のご質問は出なかったですね(笑)
そうすれば第4段階もなく、もうすでに年金はほぼ本則通りになっていたはずです。
しかし、「いやいや、やはり急ぎすぎだ。せめて報酬比例部分だけでも60歳から残そう」ということで、おかれた制度が第3段階です。
つまり、報酬比例部分と定額部分の支給開始年齢を同時に引き上げるのか、報酬比例部分を60歳で残すのかは、年金制度改正の目的と、激変緩和の観点のバランスから政策的に決められたことです。
そして結果的に報酬比例部分だけが60歳で残されたのですから、そこに加給年金額を残すのか、それとも定額部分と同様に加給年金額も支給開始年齢を引き上げるのかも政策的なテーマであって、どちらがふさわしいかを論じることに、意味はないのではないでしょうか?
基本的な政策としては、65歳まで働いてください、ですし、共働きも推進、ですからね。
また、旧法では加給年金額は配偶者の年齢と関係なく支給されたので「長期間被保険者であった年金生活者が家族を支えていくためのフォローである」という説明で良いかと思いますが、新法では配偶者が65歳までの加算で、配偶者が65歳になるまでの世帯年収の補填としての性格が強いものです。
夫婦が同年齢なら、もうほぼほぼ意味がない制度ですから、個人的にはこの説明はどうかな?と、思います。
また、上記の説明でお解りかと思いますが、このテーマは「新法年金に対して特別支給の老齢年金をどのように変化(減額→消滅)させるのが合理的か?」というテーマですから、「65歳以降定額部分がなくなっても出続ける」という点は、見る必要もありません。
最後に、質問される前に改正史のおさらいはしましたか?
特別支給の老齢厚生年金の疑問は、多くは経過措置の過程を理解していないことから起きます。
参考になった:4人
poo_zzzzz 2020-07-11 23:03:11
poo_zzzzz先生
お忙しい中ご回答くださり、ありがとうございました。
プリントアウトして読みこみました。
質問前に、政策的な理由かな、とは考えてみたんです。
定額部分に連動させれば早く給付する必要がなくなるとも思いました。
でも、そんな理由で?!と思い、質問させていただいた次第です。
今回いただいたご説明でようやく分かったことがあります。
最後の「改正史のおさらいはしましたか?」のお返事にもなるのですが、このあたりの動きは定額部分の引き上げが始まる前の老齢厚生年金(老齢年金?)の内訳が知りたくて、あれこれ調べたんです。
というのは、定額部分引き上げ開始前の図に定額部分と報酬比例部分が二階建てになって描かれているのですが、これはあくまでも定額部分を引き上げていくために元々一本だったものを便宜的に二階構造に見立てたものだと思いこんでいたんです。それで元々はどんな風になっていたのかな、と、、、
たぶん先に学んだ老齢基礎年金や65歳以降の老齢厚生年金が基本は一本で出ているから、「そういうもの」と思い込んでしまったのだと思います。
今回の第一段階、第二段階の緩和措置の説明を読ませていただき、ようやく本当に元々それぞれの部分があって、合算して出されていたんだとわかりました。
ただ、そうなると、なぜ一本で出せば良いものをわざわざ二本立てにして出していたのか、という疑問が生じまして。
もしかしたら報酬額に左右されない一定の額を給付するために「定額部分」が設けられていたのかな、と思いました。
そう考えると、定額部分は老齢基礎年金の考え方に通じます。加給年金がこちらに連動するのも不思議ではないように思えました。
このところ改正の流れがうまく把握できず困っていたのですが、
大きく捉えると、厚生年金の中に基礎年金的な考え方が元々あって、それを自営業者等の年金に繋いでいった、ということになるのでしょうか。
そうであれば、移行させる計算がややこしいことや、厚生年金の給付が目減りしているのに基礎年金拠出金を拠出する意味など、いろいろな疑問がすんなり解消するのですが、、、
違っていたらご指摘いただけるとありがたいです。
aokisan 2020-07-13 13:27:57
旧法時代、国民年金の老齢年金は、定額単価で保険料納付済期間と保険料免除期間に額が比例する定額制の年金で、65歳からの年金でした。
厚生年金保険の老齢年金は、平均標準報酬月額と被保険者月数に比例する報酬比例型の年金(被保険者期間に上限なし)と、定額単価で被保険者期間に比例する定額制の年金(被保険者期間の上限あり)の2階建て年金で、60歳(女性は55歳)からの年金でした。
この定額部分は、報酬の低い被保険者に、一定以上の老齢年金を保障するための構造です。
今でも、会社負担を合わせても、標準報酬月額が88,000円なら国民年金よりも保険料が安いことに気づいていますか?。標準報酬月額に88,000円未満がないのはこのためです。
防貧効果を期待するため、加入期間に合わせた一定額の年金は必要と考えるのです。
新法では、厚生年金は報酬比例部分のみとして、定額制の年金を国民年金に絞り、これを基礎年金と称して、被用者・自営・無職共通の年金としたのです。
そして、元々厚生年金が支給していた年金を基礎年金に任せるのですから、拠出金をだすこととしました。
ただ、それだけです。
ただ、旧厚生年金の老齢年金の定額部分の単価は、旧国民年金の老齢年金の定額部分の単価の約1.8倍ありました。支給開始年齢も5年(女性は10年)早かったのです。
この差を緩やかに埋めるために経過措置があります。
65歳以降は、経過的加算が、単価や20歳未満・60歳以上の被保険者期間により生じる差を埋めます。
ちなみに、定額部分は、1.8倍あった給付単価を1にするのですから、ずいぶんな切り下げですが、これについて国が主張したのは第3号被保険者制度の創設でした。
つまり、従来被用者に支給していた年金を割り、被扶養配偶者個人の年金を作るから、ということです。
婚姻して配偶者が無職の期間だけ捉えれば、確かに損はありません。まぁ、独身の者や共働きは・・・・
年金財政が逼迫しても、専業主婦(主夫)からそう簡単には保険料を取れないのは、このためです。
参考になった:3人
poo_zzzzz 2020-07-13 16:17:53
poo_zzzzz先生
お返事をありがとうございました。
とてもよくわかりました。
骨子については想像していた通りだったのでうれしかったです。
同時に、肉付けもしていただいたので、すんなり理解できました。
標準報酬月額が健康保険と違って88,000円未満がない点など、深く頷けました。(保険料のことは、言われてみれば、、、考えたことがなかったです。)
「ただ、それだけ」とおっしゃられましたが、今の制度から遡って読み解くのは私にはなかなか難しかったです。
でもようやくすっきり理解できた気がします。
定額部分の単価が1.8倍だったとは驚きましたが、先に54%に抑えるとありましたから、なるほど1になりますね。
そしてこの引き換え条件(?)として提示したのが第3号被保険者の創設だったのですか。
第3号被保険者についてば度々議論に上りますが、そういう経緯があったとは知りませんでした。
被用者の合意を得ずして変更するというのはおかしいのですね。
ただ、独身の方や共働きの方が増えているようなので、時代が制度を変えるのかもしれません。
細かい部分までご解説くださり、ありがとうございました。
aokisan 2020-07-13 19:07:22