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健康保険/通勤手当が支給されない場合の随時改定について
suteteco 2021-03-17 08:28:23
平成28年 健康保険法 問5E について質問です。
「産前産後休業の通勤手当の不支給は賃金体系の変更にはあたらず、随時改定の対象とはならない」とありますが、
例えば病気欠勤制度中や傷病手当金支給中に、通勤手当が不支給になり2等級の変動があった場合も同様に改定対象とならないと考えてよいのでしょうか?
質問に答えるより先に、テーマの取り方(論点)が誤っています。
この問題は厚労省から機構への事務通知から拾われた問題で、事務通知がQ&Aになっているため「産前・産後休業期間」とか「基本給は休業前と同様に支給する」とか、内容が具体的なものになっていますが、この問題の論点はそこではありません。
随時改定における昇給又は降給とは、固定的賃金の増額又は減額をいい、「ベースアップ又はベースダウン及び賃金体系の変更による場合」を言います。(S360126保発4号、R020817保発0817第1号)
この問題のテーマは、「通勤の実績がないことにより、通勤手当が支給されない場合」が、「ベースダウン又は賃金体系の変更」になるのかどうか?です。
まず、随時改定を離れて、ベースダウン又は賃金体系の変更を考えてみましょう。
一般的な日給月給制(基本給は月給だが欠勤や無給の休業は減額する)の例で考えます。
さて、基本給が月給で、欠勤した場合に欠勤控除する場合、1日あたりの欠勤控除はどのように行うのが合理的でしょうか?
基本給の額を、欠勤があった賃金締期間の所定労働日数(その月の歴日数から休日の数を引いた日数)で除した金額でしょうか?
確かに一見合理的ですが、そうすると、連休や夏期冬期休暇等の休日が多い月の欠勤控除額は多くなり、休日が少ない月の欠勤控除額は小さくなるという不合理が起きます。
そこで多くの会社は、基本給を年間平均の月あたりの所定労働日数で除して、1日あたりの単価を算出します。
典型的な計算は
365日-年間休日数=年間所定労働日数
年間所定労働日数÷12=年間平均の月あたりの所定労働日数
です。
この年間平均の月あたりの所定労働日数を21日としましょう。
基本給が月給で、例えば1日欠勤した場合に、基本給の21分の1が減額されるとします。
これは一見合理的です。
しかし、例えば大型連休を含む賃金締期間であれば、その賃金締期間の所定労働日数は例えば17日しかない場合もあり、そうすると全休しても基本給の21分の17しか欠勤控除できません。
逆に6月のように休日が少ない月で、その賃金締期間の所定労働日数が例えば23日あった場合に、全休したら基本給より欠勤控除が大きくなり、マイナスが生じます。
また、23日中の2日だけ出勤したとしたら、2日出勤しているのに基本給と欠勤控除が同額となり、何ももらえません。
まずいですよね?
そこで、多くの会社は、欠勤控除(休んだ日の分、控除額が発生する)と、基本給の日割支給(働いた日の分、支給額が発生する)を、あるタイミングで切り替えます。
例えば、欠勤が重なる場合、出勤日数が8日以上あれば欠勤控除し、出勤日数が7日以下になった場合は、欠勤控除はせず、基本給をいったん全額控除します。
そして、出勤1日あたり基本給の21分の1を支給するようにするのです。
そのようにすれば、端境の部分で多少のプラスマイナスはあるにせよ、一応労働に応じた賃金が支給できます。
さて、あらかじめ定められた賃金規定でそのような計算のルールを持つ会社の場合に、ある労働者が、ある賃金締期間に私傷病で全休したとします。
出勤日数が7日以下ですから、欠勤控除ではなく、基本給をいったん全額控除して、出勤日数に応じた日割計算をするのが、あらかじめ定められたこの会社のルールです。
全休の場合、この者のその賃金締期間の、月給としての基本給は全額控除で、日割支給がないですから支給は0円です。
これ、会社によっては基本給0円、支給額0円と賃金台帳や明細書に表示される場合があり、月給であった基本給が不支給になっていますから、一見すると、ベースダウン又は賃金体系の変更に見える場合があります。
しかし、これはそうではありません。
例えば基本給300,000円の場合、
基本給 300,000円
欠勤控除 300,000円
日割支給 0円
賃金台帳や給与明細の表示がどうであれ、このような計算過程を考えるのが正しいのです。本質的に基本給は変わっていません。
あらかじめ賃金規定で定められた賃金体系の各支給項目に対する、欠勤等の場合の例外規定による給与計算の結果に過ぎませんから、ベースダウンがあったわけでも、賃金体系の変更があったものでもないのです。
お尋ねの問題のテーマは、これと同じです。
「産前産後休業」や「私傷病」といった休業の理由も気になってしまいますが、テーマはそれではなく、「通勤実績がないことによる通勤手当の不支給が随時改定の対象になるか?」がテーマです。
通勤手当の不支給が、転居で会社が近くなったとか、会社自体が通勤手当の支給を止めた等の理由で起きたのであれば、随時改定の対象になり得ます。
しかし、問題文に「産前産後休業をする期間について、基本給は休業前と同様に支給するが、通勤の実績がないことにより、通勤手当が支給されない場合」「~について、~の場合」とあるのですから、これは、その会社の賃金規定に沿った賃金計算の結果と考えるべきであり、ベースダウンや賃金体系の変更ではないのだから、随時改定には当たらない、と、考えるべき問題です。
この問題は随時改定をテーマにしていますが、随時改定は報酬支払基礎日数が原則17日以上ないと対象になりませんから、「基本給は休業前と同様に支給する」という、一般的にはやや特殊な事例になっています。
また、事務通知のQ&Aから拾った問題で、表現が分かりやすいとは言えません。
「その事業所の通勤手当の制度自体が廃止されたわけではないことから、賃金体系の変更にはあたらず、標準報酬月額の随時改定の対象とはならない。」という部分は、かえって受験生を混乱させると思います。
例えば、「被保険者が産前産後休業をする期間について、基本給は休業前と同様に支給するが、通勤の実績がないことにより、通勤手当が支給されない場合、これは通勤の実績がない場合に通勤手当が不支給になるというあらかじめ定められた給与計算のルール上の扱いであり、賃金体系上の通勤手当の支給を廃止するものではないから、標準報酬月額の随時改定の対象とはならない。」なら、分かりやすいのですがね。
通達や通知から拾った問題には、しばしばこういうことがあります。
Q&Aは、
問:産前・産後休業期間について、基本給等は休業前と同様に支給するが、通勤手当については支給しないこととしている。この場合は、賃金体系の変更による随時改定の対象となるか。
答:産休等により通勤手当が不支給となっている事例において、通勤の実績がないことにより不支給となっている場合には、手当自体が廃止された訳ではないことから、賃金体系の変更にはあたらず、随時改定の対象とはならない。
というものです。
質問が「産前・産後休業期間について~こととしている」と「規定」を尋ねているようであるのに、答えは「事例において」になっており、「手当自体が廃止された訳ではない」という個別案件に対する回答のようになっているのは、なんだか変なQ&Aだと、私は思うのですがねぇ・・・
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poo_zzzzz 2021-03-17 12:08:38
素直に読めばいいのでしょうが、社労士試験は問題の捉え方も難しいと感じているところです。
欠勤控除の考え方等、とても理解に繋がりました。ありがとうございます。
suteteco 2021-03-17 13:47:54
テキストに記述がなく、口述講義にも説明がないが、過去問にある部分は、もしかすると「サシミに付いている大根の剣」かもしれません。
食べても良いけど、別に食べなくても良いのです。
テキストにないなぁと思ったら、5肢の状態の問題を見てください。
H28健保5は、C肢が明らかに誤なので、E肢は考える必要がありません。
E肢は、5択問題を構成するためのオマケです。
E肢の中心が「通勤の実績がないことにより、通勤手当が支給されない場合、その事業所の通勤手当の制度自体が廃止されたわけではないことから、賃金体系の変更にはあたらず」が正しいかどうか?なのは、問題文を読めば明らかですよね?
これが「賃金体系の変更にあたらない」のであれば、随時改定について、欠勤・休業の理由は考える必要がありませんからね。
産前産後休業の場合の特例が、テキストにあるのならば別ですが、ないでしょう?
オマケ問題の、テキストにありもしない論点で悩むのは時間の無駄ですよ。
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poo_zzzzz 2021-03-17 14:19:01