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労災保険法/時効
yuuuuy 2021-04-08 05:03:42
よろしくお願いいたします。
障害(補償)等年金前払一時金、遺族(補償)等年金前払一時金の請求時期は「年金と同時」が原則で、「ただし年金の支給決定の通知のあった日の翌日から1年以内であれば年金を受給した後でも請求できる」とそれぞれテキストに書いてあり、1年を超えたら請求ができなくなるという意味だと思っていました。
ところが、時効は「治癒/死亡した日の翌日から2年」とあり、これは2年を超えたら請求ができなくなるということだと解釈したのですが、
1年なのか2年なのか…請求可能時期と時効が異なるのはどういうことなのでしょうか?
まず、一般論から説明します。
ある期間の経過と共に権利が消滅することを法律が定める場合、それは消滅時効である場合と、いわゆる除斥期間である場合があります。
消滅時効は民法144条以下に定められ、各法がこれにより規定を定めますが、除斥期間は民法期間その他の法律に定めがなく、あくまで解釈上の存在です。
消滅時効と除斥期間の違いは、援用の必要性が時効にはあるとか、時効の更新のようなものが除斥期間にはない、などがあります。
ある権利について、法律に「~の権利は~を経過したときは時効により消滅する」と書かれていれば、それは消滅時効です。
ならば、それがなければ除斥期間なのか、というと、その可能性はありますが、言い切れないのです。
例えば、消滅時効ならば、その期間中に例えば裁判を起こせば、時効の更新で時効の進行はリセットですが、除斥期間には更新がありません。
つまり、ある権利について適用されるのが、消滅時効なのか除斥期間なのかは、権利関係に影響します。
このため、消滅時効であるのか、除斥期間であるのかは、しばしば裁判の争点になります。
例えば不法行為の損害賠償請求権に関する20年の期間制限(民法724条)は、旧民法では消滅時効とされていませんでした。
そこで、この期間が消滅時効なのか、除斥期間なのかで争いがあり、最高裁の判例で除斥期間とされたのですが、個々の案件で数々の不都合があり、裁判上の複雑な解釈で不利益の救済が試みられてきました。
前回の民法改正で明文で消滅時効となりこの問題はなくなったのですが、この例で分かるように、法律ではっきり消滅時効とされていない権利の消滅に係る期間が除斥期間であるかどうかは、解釈が分かれる場合があります。
お尋ねの、障害補償年金請求後の障害補償年金前払一時金の請求期間(以下、単に「お尋ねの期間」といいます。)は法ではなく施行規則にあります。施行規則が定めることは、法50条に細目を施行規則に任せる規定があるため、問題はないと思います。
そこに消滅時効として規定されていれば消滅時効ですが、お尋ねの期間は、消滅時効として規定されていません。
ですから私個人としては、これは除斥期間の定めではないか?と思っています。
しかし、消滅時効の規定があれば消滅時効で問題ないですが、これがない場合には必ずそれが除斥期間かというと、先に書いたように法解釈の問題になります。
また、お尋ねの期間は、「当該障害補償年金を請求した後においても障害補償年金前払一時金を請求することができる」となっていて、直接的に期間経過による権利の消滅を定めていません。
もしかすると、行政が手続きの便宜上定めている請求期間に過ぎないかも知れません。
雇用保険の雇用継続給付が、施行規則の申請期間の4か月を超えても消滅時効の2年以内なら申請可能なように、消滅時効か除斥期間かという問題以前に、もしかすると、そもそも権利の消滅規定ではない、という可能性もあるのではないかと思います。
ですので、私には残念ながら、「こうだ」とはっきり申し上げることができません。
ただ、法令にない以上、お尋ねの期間が、社労士試験で消滅時効として問われて正になることはありません。
お尋ねの期間と、前払一時金の消滅時効は別の規定であり、消滅時効はあくまで2年です。
「障害補償年金の支給の決定の通知のあった日の翌日から起算して1年を経過する日までの間は、障害補償年金前払一時金を請求することができる」のような問題は出る可能性があります。
また、なぜお尋ねの期間があるのか?といえば、元々障害補償年金の消滅時効は5年です。
その5年間の最初の2年間だけ前払一時金の請求ができます。これが前払一時金の消滅時効です。
しかし、前払一時金の請求は「障害補償年金の請求と同時に行わなければならない」ことになっています。
つまり、5年間の最初の2年間は前払一時金が請求できるが、障害補償年金の請求と同時に行わなければ、前払一時金は請求できないのが原則です。
これは、障害補償年金を請求するときは、まとまったお金が要るかどうかをよく考えて、要るなら、年金と同時に前払一時金を請求してね、と、言う意味です。
そのようにしておかないと、行政の処理も煩雑ですからね。
これは、全部年金で受給するか、一部を一時金でまとめて受けるのかという、「受給方法の選択」の問題ですから、消滅時効の規定とは矛盾しません。
ただ、やはり後からでないと分からない部分はあるので、原則は年金の請求と同時だが、1年間は前払一時金を請求できることにしよう、というのが、お尋ねの期間です。
参考になった:2人
poo_zzzzz 2021-04-08 20:26:57
ご丁寧に説明していただき、とても分かりやすく理解できました。
法と施行規則の違いもいままで考えていませんでしたが、とても重要ですね。
ありがとうございます。
yuuuuy 2021-04-08 20:48:11