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労働基準法/法3条の判例関連
lovelenny 2022-06-13 12:53:40
テキスト14ページに「採用の自由vs思想信条の自由」の判例が掲載されていますが、本件は試用期間満了直前の本採用の拒否でした。例えば、本採用後に判明した場合、採用を取り消すことは可能なのでしょうか?法3条の趣旨から言えば、それを理由に取り消しはできないようにも思えますが、面接時の虚偽回答などを理由に取り消しができるようにも考えられます。回答のほど、宜しくお願い致します。
まず、教材を見ていないことをお断りします。
また、ご質問の趣旨が教材内容についてであるなら、質問広場の注意書きにあるように、質問広場ではなく、山予備の事務局さんにお問い合わせください。
さて、その上で回答します。
結論から言えばケースバイケースだと思います。
理由を述べます。
いわゆる「三菱樹脂事件」の判決の最大の意義は、「憲法に定める思想・信条の自由は、私人相互の関係を直接規律することを予定していない」、と、いういわゆる「間接適用説」を明示した点でした。
その上で、「労働基準法3条は、労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではなく、また、思想、信条を理由とする雇入れの拒否を直ちに民法上の不法行為とすることができないことは明らかであり、その他これを公序良俗違反と解すべき根拠も見出すことはできない」としました。
これが社労士受験における、この判例の重要なポイントです。
これにより、学生運動への参加を理由とした本採用の拒否が、憲法違反ではなく、また、労働基準法3条にも反しないことが明示されました。
このため、この裁判の最終的な論点は、面接時にあった学生運動参加の有無の質問に対し、労働者は否定したが、実は参加していた(会社はこれを詐欺だとしている)という事実が、留保解約権(試用期間の解雇権)の行使について、客観的に合理的な理由となるかどうかに絞られました。
最高裁は、この点について高裁の審理が尽くされていないとして、高裁の判決(会社敗訴)を破棄し、高裁に審理を差し戻し、高裁で和解が成立して裁判が終わりました。
最終的に原告の労働者は復職され、子会社の社長にまでなられたと聞いています。
お尋ねの件の論点は「採用選考時の虚偽申告が、解雇において客観的に合理的な理由になり得るか」です。
試用期間があってもその後の本採用を前提としているなら、本採用の拒否には解雇権濫用の法理が適用されますから、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な解雇でなければ解雇無効です。
試用期間中は解雇権行使の余地が広がりますが、それは契約においてzy適性判断の期間を設けた事による緩和であり、本採用の前後で解雇の本質が変わるわけではないのです。
質問された方はこのあたりを思い違いしていませんか?
判決は、採用拒否の不法性について結論を出していないのですから、仮定の話に対して「どうなる?」はお伝えできません。
また、一般論で言っても、採用選考時の虚偽申告が解雇において客観的に合理的な理由になり得るかどうかは、その虚偽の内容が採用結果に及ぼす影響や企業活動に対する影響などを考えた上の判断になります。
つまり、ケースバイケースです。
また、受験対策としてこの判例を見る場合は、先に書いた「労基法3条は雇い入れを制約しない」の部分を中心に学習する部分です。
本採用を拒否できるかどうかは、結果として解雇できるかどうかを考えることになり、労基法19条の解雇制限等を除けば労働基準法の範疇ではありません。
受験対策としては、一般常識で学習する労働契約法16条で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められている、という程度の知識で良いのです。
この労働契約法16条は、判例法であった解雇権濫用の法理を明文化したものです。
あなたのご質問は、これに基づく個々の事案における解雇の可否の判断になりますから、受験学習の範囲ではないのです。
「法令を学習する」のと「社労士受験の合格のための学習をする」のは違います。
社労士受験に必要な知識は裾野が広く、必要な事項の取捨選択は絶対に必要です。
テキストと口述講義は、受験に必要性の低い事柄をカットし、必要な事柄を分かりやすく伝える受験のための武器です。
「載っていない」ことは「武器」の「長所」です。
テキストになく、口述講義にもなく、過去問の出題例もない事柄を、あれこれ考えるのは楽しいですし、私も大好きです。
でも、それは受験教材の長所をスポイルする行為ですから、受験対策として一般的にはお勧めしませんし、される場合は自己の責任でされるべきだと思います。
テキストと口述講義で学習し、過去問に取りかかると、実戦の演習を通じて知識が整理されます。
と、同時に、何度も過去問からテキストに戻って広く丁寧に読み直すことで、知識が補完され、修正されます。
その過程で、多くの疑問は解消しますし、解消しなくても「受験のために解決が必要な疑問かどうか?」も、ご自身で判断できるようになることが多いのです。
そのレベルに学習が進むまでは、起きた疑問には付箋を貼り、先に進むことをお勧めします。
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poo_zzzzz 2022-06-14 11:27:46
丁寧にご説明いただきありがとうございます。
受験勉強を効率よく学習する方法として、ご指摘いただいた通りだと思います。私としては、受験が最優先ですが、合格後社労士としての知識(考え方)も大事と考え質問させていただいたものです。
lovelenny 2022-06-14 11:03:52
この質問広場は、社労士受験のための場です。
実務的な質問であれば、それにふさわしい場を利用されることをお勧めします。
また、あなたはこの裁判で採用拒否できたと思い込んで「本採用後だとどうでしょう?」と質問されておられます。
私が書いたように、この裁判は採用拒否の可否を判断していません。
解雇権濫用の法理に基づく留保解約権の行使の可否について高裁の審理が尽くされていないとして高裁差し戻しになり、最終的に和解で労働者は復職されています。
これはネットで調べればすぐに分かります。
それすら調べずに「合格後社労士としての知識(考え方)も大事と考え」と言っておられるなら、考えが甘すぎると思います。
実務家の仕事として必要な知識や考え方を得たいと思っておられるなら、それなりの自助努力が必要なのではないですか?
受験学習中は合格に全力を尽くし、特に学習の中期までは、テキストと口述講義と過去問に集中すべきだと思います。
これは、そうではない学習方法を否定するものではありません。
私自身は、いろいろなことを考え、調べ、疑問を潰す、手間のかかる学習をしてきました。
でも、それにはそれのやり方があると思うのです。
私がよく書く例えですが、谷川岳という山があります。
小学生の遠足でも登る山ですが、同時に遭難者数でギネスブックに載った山でもあります。
これは、なだらかで整備され安全な尾根道を持つと同時に、急峻で脆く高度のある崖を多く持ち、天候の変化も激しいからです。
この山を、小学生も登る尾根道をのんびり歩くのも自由ですし、急峻な崖を登攀用具を使ってよじ登るのも自由です。
しかし、あえて急峻な崖を選ぶなら、それに必要な知識も、体力も、技術も、装備も、登山する方がご自身で備えなければなりません。
私は、受験学習も同じだと思っています。
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poo_zzzzz 2022-06-14 11:52:20