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労働基準法/労使委員会について
takonoyama 2023-02-28 15:00:33
いつもお世話になっております。以下、質問させていただきます。
企画業務型裁量労働制または高度プロフェッショナル制度を導入する場合、会社は労使委員会を設置し、その4/5以上の決議により細目を決定する必要がありますが、労働組合のある会社の場合でも協定たる労働協約では足らず、労使委員会の設置を求めたのはなぜでしょうか。その意図をご存じであればご教示いただけると幸いです。
そもそも、労使委員会の半数は組合によって指名され(労基法38条の4第2項1号)、残りの半数は使用者なのですから(同1項括弧書)、会社と組合との協議により締結する労働協約であっても同様の効果が得られるように思えるのです。この点、中小企業における組合の組織率は著しく低いので、組合がない会社でも導入できるように配慮したとも思えますが、その場合でも労使協定(労働協約)と選択可能な記載にすれば足りるはずです。
なお、38条の4と41条の2では重複した記載があり、通常であれば、以下「労使委員会という」などと定義したうえで重複を回避するのが一般的のように思えます。ことさら重複した記載にしたことにも、何らかの意図があるように思えます。その意図や経緯について、もしご存じであれば、あわせご教示いただけますと幸いです。
お尋ねになっている内容は、本来であれば労働政策審議会の議事録を読み込んでお答えするべき事柄ですが、ネットで公開されている議事録は過去5年程度なので、今回の回答に必要な平成12年以前の議事録の検索は困難です。
また、仮に公開部分があっても、議事録は内容を読み込むこと自体が非常に時間が掛かります。
この当時、私は受験予備校の講師でしたから、そこに至る経緯は知っていたはずですですが、もう20年以上も前なので細かいことは忘れています。
このため、以下は私見です。
過半数労働組合であっても、「労働者が任意で結成した組織」に過ぎず、つまり、労働協約は、労働者の個別の組織と使用者との協定に過ぎません。
ですから、労組法で拡張が行われる例外を除き、その労働協約が法的な効力をもたらすのは、労働者については当事者である労働組合員だけで、非労働組合員には効力を及ぼしません。
これに対し、いわゆる労使協定(以下労使協定)は、労働基準法その他の法律において、ある規定に免罰規定を適用する場合に利用されます。
労使協定という用語には明確な法的定義はなく、使用者と「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定」を、一般に「労使協定」と呼んでいます。
労使協定は、主として労働基準法のある規定に免罰規定を適用する場合に、労働者の過半数代表と合意したならOKとするために必要な協定です。
労使協定の労働者側当事者は組織である必要はなく、当該免罰規定の労使協定の当事者となる過半数代表者を、目的を明示した上で投票や挙手等の明示の手段で選ばれた過半数代表者であれば問題ありません。
ただ、当該事業場に過半数代表者で組織する労働組合がある場合は、労働組合の法的性格として加入労働者は自らの労働条件の処分を原則的に労働組合に委ねていると考えられるため、過半数労働組合がある場合は、労使協定の労働者側当事者として組合を優先する、という考え方になっています。
労働協約が、原則として労働者については当事者である労働組合員である労働者にしか効果を及ぼさないのに対し、労使協定は、その目的とする法規定の免罰効果については、その事業所においてその労使協定が定めるすべての労働者に有効です。
労使協定が労働協約になるのは、労組法14条が及ぼす副次的効果にすぎず「労使協定が労働協約になってしまう」だけであり、もともと目的も、対象も、違う協定です。
このため労働協約と労使協定を混ぜて論じることはできず、労働基準法の免罰を論じる場合は、あくまで労使協定として論じられなければなりません。
裁量労働制でその免罰を論じる場合も労働協約として論じるべきではなく、労使協定として論じられるべきであり、つまり、お尋ねの件は、企画業務型裁量労働制の要件として、「労使協定ではダメなのか?」という問題に過ぎません。
企画業務型裁量労働制の導入時、より広範囲な導入を求める使用者側と導入に反対する労働者代表側で話し合いは難航し、最終的に導入するということになった時に、私の記憶が正しければ、「(労働組合とは別に)当該事業場の労働条件を包括的に話し合う組織があり、その決議で導入するなら容認する」という決着になったのだと記憶しています。
労使委員会では、労使協定において労働組合が当事者となる事業場では労働者代表を労働組合が指名しますから、労働組合には労使協定と比較したデメリットがありません。
使用者側は労働組合がなくても法的な裏付けのある労使交渉の場が持てますし、労働組合がある場合も、組合員以外の労働者も含めた労働条件を話し合う場ができます。
つまり、労働組合のような労働者が任意で結成した組織や、ある規定について独立して選任した労働者代表ではなく、当該事業所に、労働条件を話し合う委員会を置くのが先決で、その委員会が法的要件を満たすなら免罰を認めよう、いうことだったと思います。
いいかえれば、企画業務型裁量労働制を行うために労使委員会を設置するのではなく、当該事業場の労働条件について、委員会によって労使が包括的に話し合える環境がある事業場であり、その構成が法的要件を満たすなら、その決議と届出で企画業務型裁量労働制の行うことができ、かつ、その決議は労使協定を代替することができるようにもした、という考え方だと思います。
労使協定という用語には法的根拠がないのですが、労使委員会は労基則12条に根拠があり、「法38条の4第1項の委員会」という定義になっていて、そうすると、法41条の2第1項の委員会は労使委員会ではないのか?という疑義があります。
しかし、両条文の「当該決議を行政官庁に届け出た場合において、」までは一言一句まで同じですし、法41条の2第3項によって法38条の4第2項、3項及び5項が準用され、報告義務についても各条が別に定めていますから、現状ではこれは同じ委員会です。
でもね、この問題を解決したいのなら、なぜ「いわゆる労使協定」なのか、の問題の解決が先です。
労使協定は歴史的には法36条で規定されたのが最初だと思います。
その後法24条その他の多くの条文で規定されていますが、「労使協定」とも書いておらず、「~の協定」のような他条の協定の引用もありません。
条文の流れによる多少の文言の違いはありますが、法条文では、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定」として、それぞれで定義されます。
あなたの質問は、これがなぜですか?と聞いておられるのと同じです。
私は、これは労基法の「作法」だと思っています。
労働基準法上の免罰を付与するに当たって、基本的には「労使協定」や「労使委員会」といった「箱」を作るのを好まず、それぞれの規定で必要な要件を書ききるようにしているのではないかと思っています。
さて、以前のご質問で2022-03-21 00:27:54の回答や、2022-03-21 14:58:11でも書いたように、受験勉強中の疑問の解決は、ほどほどで良いと思います。
この質問広場は「社労士受験のための場」です。
今回のあなたの質問は、「受験対策上の必要性」を完全に逸脱しているように思います。
学習方法は自由ですが、だからといって、この場でどんな質問をしてもいいという訳ではないと考えます。
学習方法は自由ですから、あなたが学習中に起きた疑問を解決したいと思い、それに時間を割かれるのは自由です。
しかし、社労士受験の学習範囲は非常に広く、「受験で問われる可能性のある情報」と「合格に必要な情報」には大きな隔たりがあります。
このため、受験対策では情報の取捨選択が最も重要であり、それをすでにしてくれているのが受験用教材です。
受験に必要な情報に絞られたテキストで学習し、過去問という「窓」を通じてテキストで得た知識を鍛え直し、テキストを広い範囲で見直して受験に必要な情報を自由に取り出せるようにするトレーニングが、基本的な受験勉強だと思います。
テキストにとって「載っていない」ことは受験用の武器としての「長所」ですから、この長所を殺すような学習法には慎重である必要があります。
いってみれば、これは小学生でも登れる安全な尾根道をたらたらと登る登山のようなものです。
退屈かも知れませんし、見下ろした谷底に面白そうな物があっても取りに行くことはできません。
だから、あえて急峻な岸壁を登り、滝のある沢を徒渉してその過程を楽しむのも自由です。
着く場所は同じですからね。
しかし、急峻な岸壁や滝を登るなら、それに必要な体力、技術、知識及び装備はご自身で備えなければならないと思います。
学習において他人に訊くと言うことは、他人の知識と労力と時間を借りるとことです。
あえて安全な道を行かず、ご自身の知識欲を満たそうとされるなら、他にされるべきことがあると思います。
もう一度書きますが、この質問広場は「社労士受験のための場」です。
私は「どうすれば合格に近づけるのか」を常に念頭に置いて回答しています。
私の考えでは、今回のようなご質問は「社労士試験の合格に必要な疑問の解決」ではないと思います。
「法令がそうなっている理由」は、長い歴史の中でそうなっていたり、政治的な圧力や思惑がある場合もあって、難解な場合が少なくありません。
また、その法令が書かれたときの書き方への考え方にも影響されます。
簡単な例で言うと、国年法は「~の日が属する月」で厚年法は「~の月」ですが、同じ月を指します。
この理由は書かれた時期が違い、書き方に対する考え方が違うからとしか言いようがありません。
そういった部分に対する疑問には意味が無く、気づかなければその方が良いかも知れません。
逆に言えば、たまたま違いに気づいたというそれだけの理由で、受験対策的な必要性の検討をせずに解決しようとするのはいかがかと思います。
それでも、そうなっている理由に受験対策上の必要があればテキストに書いてあり、または講師が口述講義で触れます。
それがない部分については受験対策上の必要性が薄い、または説明が難解又は長くなるという理由で「ない」のですから、これは「情報を絞る」という受験教材の長所であり、目標です。
あえてそれを超える学習をされることは自由です。
そうでないと納得できない、とか、覚えやすい、とかありますからね。私の受験生時代もそうでした。
でも、それならばそれで自己の責任でされるべきですし、質問をされるにしても、それにふさわしい別の場所の利用をお勧めします。
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poo_zzzzz 2023-03-01 13:48:20
ご回答いただき、ありがとうございました。
さまざまな疑問を整理しながら、じっくり拝読いたしました。
38条の4の条文を読んだ際、労使委員会は欧米風の従業員代表制の導入の先鞭をつけたものなのか、という疑問がありました。
力関係に大きな格差のある会社と労働者による労働条件の協議にあたって、高プロのような権利侵害のリスクが高いものについては、いかに民主的な選出がなされたとしても、条件交渉の委任を得ていない労働者過半数代表には荷が重い。
他方、労組には交渉権限が委任されているとはいえ、その交渉結果は原則として管理職などの非組員には及ばない。だから、労働者過半数を代表する組合との協定であってもなお不十分な側面がある。
そこで、たとえ労組により指名された場合であっても、全従業員を代表して協議することを「義務付けられた」労使委員会による決定が、特別に要求されたのではないか。そうしてはじめて、ホワイトカラー・エグゼンプションが、諸々の代償措置などを織り込んだうえで真摯な合意に達したとみなしうる。
そして、このような労組法では予定していない「拡張」は、労使委員会が組合員が参画するものであっても、あくまで会社の組織であり、その指揮に服するからこそ可能になるのではないか。
いいかえれば、労組という会社とは別組織のものに、組合員の枠組みを超えた(高度な権利侵害のリスクがある労働条件の)交渉を求めることができないがゆえに、社内の組織として労使委員会を設ける必要があったのではないか。
そうであれば、労組の衰退とともに、労使委員会の活躍の場がこれから増えてゆくに違いない。
そんなふうに想像していました。
ご教示いただいた内容は、今回もじつに実りの多い内容で、一見平板で味気ない条文が鮮やかな陰影を見せ始めるかのようです。
確かに、受験の枠から逸脱した質問内容でしたが、「なぜ労使協定では足らないのか」を考えることは、少なくとも私には、労働法の基本コンセプトを捉えなおして、労基法を有機的に理解する良い機会でした。
また、「安全な尾根道」を踏む足を止め、ときに遥かな山巓を見やることは、長く退屈な道を歩む者の意欲を支えてくれるようにも思えます。実際、「あのような回答ができる専門家になりたい」と思う人は多いのではないでしょうか。
質問の2点目、労使委員会の定義については、どうやら考えすぎだったようです。
多くの法律をチェックしたわけではありませんが、法律は効率的な記述を重んじ、重複する記載を極端に厭うところがあると思っていました。会社法などでは、ある条文が参照する条文を追って、複数のページを見渡さなければ意味が分からないことが多かったように記憶しています。そういった経験からすると、この労基法の記載は、いささか異様に思えたのです。立法にあたっては法制局のチェックが入るでしょうから、その重複には特別な意味があるのか、と穿って考えてしまったようです。
ともあれ、見ず知らずの者の質問に、実に丁寧に、相当の時間を費やしてまでご回答いただき、本当にありがとうございました。
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takonoyama 2023-03-01 14:50:07
> 38条の4の条文を読んだ際、労使委員会は欧米風の従業員代表制の導入の先鞭をつけたものなのか、という疑問がありました。
昭和の末に労使協定の性格は大きく変わりました。
それまでの労使協定は、36協定のように法規制に免罰を与えるものに過ぎませんでしたが、例えばフレックスタイム制や1年単位の変形労働制のように労働者の働き方そのものを規定する事項にも労使協定が導入され、これにより「労働者代表のあり方」が論じられるようになり、その頃から従業員代表制の議論も盛んになったようです。
また、企画業務型裁量労働制により導入された労使委員会については当時から法学者の議論するところであり、従業員代表制といった形への発展に対する期待の声と共に、例えば事業主が任意で設置する委員会であること等、批判も多くありました。
2005年に厚労省が「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」の報告を出し、その中で、今後の労使委員会のあるべき立ち位置について論じています。
また、独法労働政策研究・研究機構には日本における従業員代表制の議論について状況報告があるので、興味があればそちらも検索してみてください。
> ご教示いただいた内容は、今回もじつに実りの多い内容で、一見平板で味気ない条文が鮮やかな陰影を見せ始めるかのようです。
> 確かに、受験の枠から逸脱した質問内容でしたが、「なぜ労使協定では足らないのか」を考えることは、少なくとも私には、労働法の基本コンセプトを捉えなおして、労基法を有機的に理解する良い機会でした。
> また、「安全な尾根道」を踏む足を止め、ときに遥かな山巓を見やることは、長く退屈な道を歩む者の意欲を支えてくれるようにも思えます。実際、「あのような回答ができる専門家になりたい」と思う人は多いのではないでしょうか。
あなたの受験学習においてどういう意味を持つのかを論じる気はありません。
先にも書きましたが、この質問広場は「社労士受験のための場」であり、私は「どうすれば合格に近づけるのか」を常に念頭に置いて回答しています。
その観点から、あなたの質問内容は受験対策から逸脱していると申し上げています。
誤解しないで欲しいのは、あなたの学習方法が悪いと言っているのではありません。
受験対策として人には決してお勧めしませんが、私自身は、インターネット環境もろくに無い時代に、あらゆる手段を使って疑問を潰して受験学習してきました。
受験対策としてあきれるほど無駄な時間でしたが、私自身に得るものは多かったと思います。
ただ、ここは「社労士受験のための場」であり、その趣旨から受験対策から逸脱した疑問に応答する場ではない、と申し上げていて、それにふさわしい場で疑問を解決されることをお勧めしているだけです。
仮にそのような場がない、と言われても、だからといってここをそのような場にされるのはいかがかと思います。
それにね、従業員代表制に思いが至っていたなら、先に挙げた厚労省や独法のレポートは簡単に検索できます。
それを読んでおられたら今回のような、労働協約を中心にしたご質問には、少なくともならなかったと思います。
ここではない、それにふさわしい場所で訊かれるとしても、まずは自助努力だと思います。
最後に、あなたがなさっているのは尾根道から遥かな山巓を見やる行為では無いと思います。
自分の力ではなく、他人の力を借りて、危険な岸壁や谷に入ろうとする行為のように感じるのですが、いかがですか?
参考になった:1人
poo_zzzzz 2023-03-01 17:45:24
確かに、おっしゃる通り他人の力を借りて、自分にとって頂だと思える方角に進もうとする行為であったと思い至りました。
いつも素晴らしい回答をなさっていることに、つい甘えてしまったようです。
もう少し厳しく自助努力に励む必要があること、今回はよく理解できたつもりです。
ご多忙の中、お答えいただき本当にありがとうございました。
takonoyama 2023-03-02 11:14:44
学習や研究は、受験の足枷がなくなってから、いくらでもできますからね。
今の疑問はノートにでも書き留めて大切に置いて、今は合格に絞った学習をされることをお勧めします。
poo_zzzzz 2023-03-03 18:25:44