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違います。

労災保険も、雇用保険も、強制保険です。
このため、使用者や労働者の意思に関係なく、労働契約関係による使用が開始した瞬間に労災保険関係は成立し、雇用保険の対象となる労働者の雇用が開始した瞬間に雇用保険関係は成立します。

しかし、法律的に成立しても、使用者が保険関係成立の届出を怠れば、国は保険料の徴収ができません。

このため、労災保険・雇用保険の保険関係が成立しているにもかかわらず、事業主が保険関係成立届を提出しなかった場合に、これが判明した場合は、政府は事業主に保険関係成立届を提出させ、算定調査を行って認定決定をして、最大で2年度前以降(2年前の同月以降ではない。労働保険料の徴収時効は2年だが、徴収が年度単位のため時効も年度単位で考え、例えば平成30年3月までは平成27年4月以降の労働保険料徴収権は時効消滅していない。)の労働保険料と、10%の追徴金を徴収します。
保険関係成立届の提出及びその後の労働保険料の申告納付を怠ったこと自体に対するペナルティは、労災保険についても、雇用保険についても、この認定決定における追徴金で終わりです。



この場合に業務災害にかかわる事故がすでに起きていた場合は、当該業務災害についての労災保険給付に要した費用について、政府はその全部又は一部を事業主から徴収します。
保険料を支払う事業主から保険給付の費用を徴収するということは、その範囲で事実上は保険給付が不支給であるということです。
保険関係成立届の提出及びその後の労働保険料の申告納付を事業主が怠った状態で「業務災害が起きてしまった」場合に、「徴収金の徴収の形で、事実上その価額の保険給付をしない」という、事業主へのペナルティです。

労災保険がこのようなペナルティを課し得るのは、労災保険は「労働者のための保険」ではなく、労働基準法により、業務災害による無過失責任の補償義務を負う「事業主のための保険」であるからです。
労働基準法は、使用者の過失の有無に関係なく、業務災害について使用者の補償義務を定めています。つまり、労災保険がなければ、事業主は業務災害の補償を全額負担しなければなりません。
もともと事業主に業務災害の補償義務が法的にあるのだから、ルールを守らない事業主に対しては保険給付の一部を徴収することが可能なのです。

雇用保険の失業等給付に相当する費用の法的負担義務は、もともと事業主にありません。
雇用保険の失業等給付は、失業者の経済的基盤が不安定であると不適切な求職が行われ雇用のミスマッチが起こりがちとなり、このため再失業するという負のスパイラルによって社会が貧困化するのを防ぐという社会保険の一部ですから、保険関係成立届が提出されていないことを理由に、雇用保険について給付の費用徴収という形で事業主に法的なペナルティを与えることは難しいでしょう。

なお、先にも書いたように、労災保険は事業主のための保険であり、その給付の対象者は「業務災害が起きたその時に労働契約に基づく使用従属関係があった」という事実だけでよく、このため、たまたま半日だけの契約で働いていた学生アルバイトであっても、何らの事前の手続きなしで、労災保険の給付対象になります。被保険者の概念も、資格取得の届出もありません。
しかし、労災保険の障害や遺族の保険給付の時効が5年であるため、結果として労働保険料が時効により徴収できない期間の業務災害について、政府が保険給付をすることは、理論上はあり得ます。
この場合の事業主へのペナルティも保険給付の費用徴収であり、労働保険料については消滅時効の範囲内での遡及しかなく、先の追徴金以外のペナルティはありません。



さて、次に雇用保険の被保険者資格についてです。
雇用保険の本来の法的な被保険者資格取得日は、雇用保険法の被保険者資格を満たした時です。それが20年前であっても、です。
しかし、雇用保険法22条4項の規定により、被保険者となった日が確認があった日の2年前の日より前であるときは、当該確認のあった日の2年前の日に当該被保険者となったものとみなして算定基礎期間が決まります。
このため雇用保険被保険者資格取得届が2年を超えて遅れた場合、実務的には確認があった日の2年前の同月同日付(こちらは厳密に2年間)で被保険者資格の取得が行われます。
しかし、雇用保険被保険者資格取得届がなされていないにもかかわらず、2年を超えて前から、労働者に対する毎月の賃金から雇用保険料の被保険者負担分を事業主が徴収している、という事態が起きている場合があります。
この場合、被保険者は「自分は昔から雇用保険に入っている」と思っているわけであり、被保険者自身は保険料負担もしているのですから、使用者が義務を怠ったことを理由に雇用保険の算定基礎期間が短くなるのはかわいそうですよね?
そのような者に対する救済として、平成22年に雇用保険が改正され、そのような者は雇用保険法22条5項の対象となり、その者に支払われた賃金から控除されていたことが明らかである時期のうち最も古い時期として厚生労働省令で定める日以降の日が雇用保険の算定基礎期間になります。



保険関係成立届の提出及びその後の労働保険料の申告納付を、事業主がきちんと行っている場合ならば、労働保険料の申告納付も、賃金から雇用保険の被保険者負担分の控除もきちんとなされているのですから、単に雇用保険被保険者資格取得届を出し忘れていただけで、それ以外には問題がありません。
このため、その場合は、厚生労働省令で定める日に遡及して被保険者資格の取得が行われるだけです。



しかし、保険関係成立届の提出及びその後の保険料の申告納付を事業主が怠っていて、しかし5年も10年も前から、労働者の賃金から雇用保険の被保険者負担分の控除をしていたら、どうでしょうか?
2年度以前の賃金から雇用保険の自己負担分が徴収されている被保険者については、雇用保険法22条5項の規定によりその算定基礎期間が認められてしまいます。しかし労働保険料の消滅時効は2年ですから、政府は2年度前以降の分の保険料しか遡及して徴収できません。
そのような場合に、2年度を超えて雇用保険に係る労働保険料を使用者から徴収する制度が、徴収法の特例納付保険料です。
徴収法の時効を超えて雇用保険に係る労働保険料を徴収する制度であり、現行法では強行規定になっていません。条文は「政府が徴収する」ではなく「事業主が納付することができる」です。
また、強制ではないにせよ、確定保険料の認定決定を、時効の壁を越えて適用するような制度ですから、適用する場合は10%の加算がつきます。



気をつけて欲しいのは、「その者に支払われた賃金から控除されていたことが明らかである時期のうち最も古い時期として厚生労働省令で定める日」に遡及して算定基礎期間を認める制度は、雇用保険法22条5項の規定であって、徴収法の特例納付保険料とは、直接は関係ない、ということです。

雇用保険法22条5項の規定は、本来は、単なる「雇用保険被保険者資格取得届の出し忘れ」を対象にした制度なんです。
ですから、労働保険料の申告納付は正しく行われているという前提の制度であり、徴収法とは本来は関係ありません。

しかし雇用保険法22条5項が適用される場合に、事業主が保険関係成立届の提出及びその後の労働保険料の申告納付を怠っていた場合には、雇用保険に係る労働保険料が徴収できていない期間について雇用保険の算定基礎期間を認めることになります。
しかし、労働保険料の2年の消滅時効により、2年度より前の労働保険料は徴収できず、追徴金も課すことはできません。
そのような場合に、厚生労働大臣が事業主に「納付するように勧める」保険料が、特例納付保険料です。

ここからは、解りやすくするためにあえて不適切な表現があります。
政府は、平成22年の改正で、本来は被保険者資格の確認から2年以上は遡らないはずの雇用保険の算定基礎期間を、労働者の賃金から保険料が控除されていたことが確認できる範囲で遡れるようにしました。
これは労働者保護のために、確認制度の2年の壁や保険料の消滅時効の壁を、政府があえて乗り越えたのですが、今はまだ、「政府が勝手にやった」制度のような扱いです。
しかし、労働保険料を原資としている以上、そのような運用は、他の事業主に対して不公平ですね?
この場合に政府が徴収できない労働保険料を、厚生労働大臣が事業主に、いわば、「納付するようにお願いする」制度が、特例納付保険料の制度なのです。
納付する場合は10%の加算がありますが、納付そのものが強制ではないため、現状ではペナルティとは言えないように思います。

なお、労災保険の場合、現在の労働保険料の消滅時効と保険給付の消滅時効の関係は昭和の時代から変わっておらず、いわば「制度として織り込み済み」ですし、事業主からの費用徴収もありますから、労働保険料徴収ができなかった期間の労災保険の保険給付について、新たな労働保険料を徴収する規定はありません。

このため、特例納付保険料は雇用保険のみの制度です。

先に説明した、労災保険における事業主からの費用徴収との性格の違いを含め、これで理解できたでしょうか?

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poo_zzzzz 2017-12-25 07:03:29

ご回答ありがとうございました。
雇用保険と労災保険の性質の違いから、特例納付保険料が雇用保険のみの制度である理由がよく理解できました。
もう少し読み込んで自分のものにしていきたいと思います。

ありがとうございました。

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gari  2017-12-25 12:19:59



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